NOVEL
□水谷文貴の悲劇
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「あーもううぜぇ!」
部室の扉が開いて聞こえてきた阿部の怒鳴り声に、三橋がびくっと体を震わせ、泉が心底迷惑そうに入口に目を向け、沖が恐る恐る声の方を振り返り、西広が心配そうに怒鳴られている…水谷を見つめている。
「だって〜」
「だって〜、じゃねぇ!自業自得だ」
その後ろから入ってきた花井はどしたどしたと纏わり付く田島に頭の痛そうな、なんとも気の毒な顔をしている。
苦笑いの巣山と目が合って俺もつられて笑った。
「で、どうしたの」
「聞いてよ栄口〜!俺、携帯見つかっちゃったの!」
半泣きの水谷によると、昼休みに漢字を調べるために携帯を使っていたらしい。
すると2限で回収した宿題のプリントを返却するために昼休みの7組へ先生が来た。
たまたま今日席替えして1番前の入口側の席になった水谷が運悪く犠牲なったのだ。
そして没収。明日の帰りまで返ってこないらしい。
「授業中に鳴ったわけじゃないんだよ?しかも漢字調べてたんだよ?見逃してくれたっていいじゃん!」
確かに昼休みに教室に先生が来るなんて稀だし、他にも携帯を使っていた生徒はいただろうから運が悪かったのだ。
「明日まで我慢すりゃいいだろが」
阿部が明らかに不機嫌な顔で言う。
そうなのだ、我慢すりゃいい話ではあるのだが、軽く携帯依存症な水谷には深刻な事態なのだろう。
当の水谷は、うーんと難しい顔をしてやがて諦めたようにため息をつくと俯いていた顔をあげた。
「皆、俺の携帯にメール送っといてね!」
三橋が何を思ったのか「オレ、お、送るよ!」と言い、便乗して田島も「俺も送ってやるよ!」とけらけらと笑った。
それから何故か皆で水谷にメールを送ってやろうということになり、一旦水谷携帯没収事件は終結を迎えた。
さっきまで落ち込んでいたのはどこへやら、水谷が「なんか楽しみ〜」といつの間にか上機嫌になっていたのを見て、また巣山と目を合わせてくすりと笑った。
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