NOVEL
□いえない
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「ありえない」とセットです。こちらは三橋視点
いつもなら今日はちゃんと体重計乗ったか、とか
赤点取ったら部活できねぇんだから勉強しろよ、とか
部活で会わなくても気にかけてくれる、そんな俺の尊敬する人。
「みーはーし!」
ぼんやりとお弁当を広げていると眼前にドアップで田島の顔が現れた。
「うお!」
「ぼーっとしてるぞ!早く食わないと5限目は体育なんだからなー」
「う、ん!」
あの日のことが気になってここ3日、何事にも手がつかない。テスト期間だから家でやっておかなくちゃいけない投球練習も、あまり集中できていないのが現実だ。
いつも野球をすれば、阿部君のことが思い出される。
でも、今は野球をしなくても阿部君のことが思い出されるんだ。
何で、阿部君はあんなことしたんだろう。
俺、真っ赤になっちゃって、阿部君変な風に思わなかったかな。
すごく気まずそうにしてたけど、俺なんかしたかな。
とかいろいろ考えてみたが思い当たる節がなくて。
あの時、すごくびっくりしてたから、あまり覚えてなくて…
何かしたんなら謝らなきゃ、
嫌われるなんて絶対に、嫌だ。
だって、
だって?
「三橋!箸が止まってるぞ」
気がつくと泉は購買のパンを早々と食べ終えてすでに上は体操服に着替えている。
「う、お」
「まだ時間あるからゆっくり食べなー」
「ハマちゃ…!」
向こうの方で田島が「泉ぃー!サッカーしよーぜ!」と叫んでいる。
「おー、じゃあ俺ら先行ってるから」
「ん、俺らも後で行くわ」
目の前の優しい彼にこれ以上迷惑をかけるわけにはいけない。
早く弁当を食べてしまわなくては。
やっとグラウンドに出たのはそれから10分後のことで。
横を並んで歩いていた浜田に声をかけられたのはグラウンドの中央の辺りだった。
「三橋、何か悩み事?俺でよかったら相談のるけど」
「え?」
悩み事、なのかな。
自然と歩いていた足が止まる。
…いえない、いえるわけがない。
「三橋?」
「あ、う」
少し前に進んだ浜田を急いで追いかける。
ふと、校舎を振り返る。
目線の先は7組。阿部君のいる7組。
と、窓際に座った彼と目が合った。
(!うあ、)
驚いてすぐに目を離した。
もしかするとこっちなど見ているわけじゃなかったのかもしれないけど、そう思うのに心臓がバクバクしておさまらない。
「どした?」
「ううん、何も、あ、悩み事じゃないよ!ただ、ぼーっとしてただけだから…」
「そっか?まあ何かあったら言えよ。泉も田島も気にしてたぞ」
「う、ん、ごめん」
いえない、
いえるわけがない。
(…ど、どうしよう…)
三橋の中で阿部は「尊敬する人」なんですが少し意識し始めるといいです。