NOVEL

□苦い甘い
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苦い甘い


ぐっと背伸びをする。
大量に出された宿題も大方片付いた。
時計を見ると3時を過ぎていた。2時間近く集中していたらしい。

「コーヒーでも飲む?」

そう言うと水谷はノートから視線を俺に移した。

「いいねー俺ブラックでいいから」
「わかった」

部屋から出る。パタンという音が廊下に響く。

(ブラック…)

ゆっくりと俺はキッチンに向かう。



ブラックは苦すぎて飲めやしない。
かっこいいなって思ってトライしたことがあったが一口で諦めたのは言うまでもない。

砂糖もミルクもたっぷり入れて、挙げ句猫舌だから少し冷めるまで飲めないし…。

なんか俺、格好悪くね?

てかあいつ甘党じゃなかったの?

「意外…」

独り言がぽつりとこぼれた。


インスタントコーヒーの蓋を開けるとふわりといい匂いがした。
まずは自分用にカップに湯をそそぐ。
いい匂いが一層強くなる。

先にいれたら少しでも冷めるだろうか。

砂糖もミルクも入れてぐるぐると掻き混ぜる。
それから水谷の分をいれる。


黒いコーヒーと変わり果てたベージュのコーヒーが並ぶ。

何かないかと見渡すとチョコレートが見えたので一掴みお盆に乗せて部屋へと戻った。



「お待たせー」
「あ、ありがとー」


水谷はカチンと携帯を閉じた。

「ほんとにブラックでよかったの?」
「うん、あ、チョコだ!食べてもいい?」
「どうぞ」

水谷はわーいと包みを開けてチョコを口に入れた。
やっぱり甘いものは好きなんだ。
なんとなくにやり。


自分もカップに口をつける。まだ熱い。
二口ほど飲んでカップを置く。

「苦くないの?」

熱いとも苦いとも言わない水谷に問い掛ける。

「うん、なんか慣れたんだよね〜」

今じゃ苦くないと砂糖入れたら甘すぎる気がしてさぁ、と言っているのを聞くと通っぽくてなんかむかつく。

「俺は無理だなー砂糖もミルクもいるし」

そろそろ飲みごろかなとカップに視線を落とす。

と、

ふっと気配を感じて顔をあげるとそこには水谷がいて、それはもう近くにいて、

「な」

に、

と続けたかったのに最後の一文字に音にならずに消えた。

唇が重なる。

油断、というか呆然としていたら口の中に温かな感触。
少し自分の肩が震えるのを自覚して、かぁ、と頬が熱くなる。

ちゅっ
と小さく音がして水谷が離れた。
息があがるほど長くはない。

が、動悸が早まるには十分な時間。

今されたことが一瞬何だかわからなくて、それに思考が追いついてキスという単語が頭に浮かぶまでの短い間で口内には苦いコーヒーの味が広がった。


「ほんとだ、甘い」


ふわりと笑う水谷の頬がほんのりピンクになっている。


おれは苦い、そう小さく呟くと水谷はへらっと笑って
「そっかぁ」
なんて言う。


口の中が苦いとさっきキスされたという事実が頭から消えなくて、無性に恥ずかしい。
俺はカップを手にとりコーヒーを流し込んだ。


程よく飲みごろになった甘いコーヒーが口いっぱいに広がる。


やっぱりしばらくブラックは飲めそうにない。

飲むと水谷が思い出されて、きっとまた赤くなる。

まだへらっと笑っている水谷にばかと言ってやるとさらにへらっとしやがった。

ちくしょう、水谷のくせに。

「宿題やる、ぞ」

動揺なんてとっくにばれてるのに、苦し紛れに詰まりながらそう言うと

「はーい」

と、まだにやりとしている水谷が答えた。


口の中がまた苦くなった気がする。



水谷と栄口のどっちにブラック飲ませるか悩んで結局文貴に飲ませました。

栄口に最初飲ませてたのにな…あれれ。



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