NOVEL

□金魚すくい
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金魚すくい



浴衣なんて着たの、何年ぶりだろう。

男の浴衣なんて女の子に比べたら華やかさの欠片もないけど、ま、着る人次第なんだろうな。

そう思わせているのはもちろん今目の前に立っている彼なのだが。

「栄口、似合うね〜」

「ははっ、そんなことないよ、なんか浴衣なんて久しぶりで…着かた忘れちゃってた」
「俺も。でも、たまにはいいかなって思った」

「うん、うん。祭りでもないと着ないしな」
「じゃ、行こっか」
「うん」



二人並んで出店を巡る。

特に燃えたのは金魚すくいだった。
多くすくった方が勝ちで、かき氷をかけていざ勝負。

結果は同点。結局、4匹の金魚を片手に二人でかき氷を食べる事になった。

途中ばったり阿部と三橋に会ったけど、それ以外に知っている人には会わなかった。

地元のお祭りとはいえそれなりに規模は大きいので来る人も多い。人ごみに紛れてしまうと知っている人に会わなくて済む。

別に男二人で遊びに来てもいいのだ。でも、周りの目が気になってしまうのは、どうしようもなくて。

俺たちは阿部や三橋みたいに、「オツキアイ」をしているわけじゃない。

ただ、本当に今日は遊びに来たんだ。

そう自分に言い聞かすのに、周りの目が気になるのはやっぱり心の何処かでそんなことを意識しているんだろうな、と思う。

(栄口はどう思ってるんだろう。)

…まあ、聞けやしないんだけど。


「夏祭り、一緒に行かない?」って誘った時、「他に誰がいるの?」って聞かれると思っていた。

だから「いいよ、じゃあ、せっかくだし浴衣着ていこうよ」と言ってくれた時は正直驚きで、喜ぶのを忘れていた。



「栄口、見て〜舌が緑になった」
「うわーエイリアンみたい、でもいいな、俺みぞれだから」
「ほんとだ、何も変わってないじゃん」

「なんか俺ら小学生みてぇ」
「だなー金魚とか育てれないのにすくっちゃったし
 あ、イカ焼き食いたい」
「いいね!でも俺はあえてかき氷でいくわ」

「何で?さっき食べたじゃん」
「エイリアンを極める」
「水谷、馬鹿だね〜」


そう言ってまた二人並んで出店を巡る。

馬鹿やって、お互い気を使いつつも楽しんで、心の底から笑って。

人はそれを「親友」と呼ぶなら俺はそれでも構わない。

今を楽しむのが一番大事だと思うから。


「ねえ、水谷」
「んー何?」

「浴衣似合ってるよ」

「…ありがと、
でもイカ焼きは奢んないよ」

「あー誉め損」
「え、ひどー!」

「ははっ、冗談だよ、ホント似合ってる」
「…信憑性薄いなぁ」

「ゴメン、ゴメン!今日は楽しかったなぁ!」
「俺も〜たまには男二人で金魚すくいもしてみるもんだね」
「だねー」


「親友」なんておいしいポジションそう簡単に捨てられるわけない。

それでもどうにかしたいと思っている自分がいるのも確かで。

駄目だなぁ、とつくづく思う。

いっそのこと阿部にでも相談してみようか。

叶わない恋だな、って馬鹿にされるのが目に見えるけど。


あーどうしたら栄口は俺に振り向いてくれるんだろう。


「水谷」
「ん?」

「また誘ってね」

「え?」


ってあれ?






ヘタレ水谷にそっと手を差し伸べるのはたまに大胆な栄口に違いない。


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