NOVEL

□昼下がりレジにて
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パロ!栄口→レジ 水谷→客 お互い面識なし






「1326円になります」

地方にあるこのスーパーでは高齢者の方が多いのは必然的なことであり、さらに「ちょっと待ってねー」とお金を出すのに時間がかかるのを辛抱強く待つことも仕事のひとつである。

けど、今日は。
ちらりと次のお客様を見ると俺と同い年くらいの男の人。
んでもってモテそうな背丈と髪型、多分これは早くしないと怒っちゃうって…!
携帯の画面に目を向けているお客様から目の前のおばあちゃんに視線を移した。

「あの、あと10円ありますか?」
出されたお金を数えるとちょっと足りない。
おばあちゃんはまた財布をごそごそするんだけど10円は出てきそうになかった。

「お金が足りないなんて初めてよー」と笑うおばあちゃんにがっくりしそうになりながら「じゃあどれかひとつやめますかね?」と何か返品を薦めるしかなかった。
また「そうねぇ」と悩むおばあちゃんに焦る俺の内心はちっとも伝わらない。

その時ぱちんと携帯が閉じる音がした、そして「はい」と穏やかな声が聞こえた。
声の主は後ろにいたお客様で、俺に10円をそっと渡してくれた。
「あらまあ」としきりにごめんなさいね、ありがとうと繰り返すおばあちゃんにその人はふんわりと笑っていいんですよと言った。

俺もすみません、とぺこりとしてお会計を済ませた。
その間もありがとう、どうしようと言うおばあちゃんとその人は「じゃあ商店街の本屋さん使ってください、俺のじいちゃんがやってるんで」「あら水谷書店さん?」「そうそう俺あそこの孫なの」と世間話に発展していた。

ありがとうございました、とおばあちゃんを通し終えてその人のお会計に移る。

今時感心な人だなあ…俺がこの人の立場だったら10円差し出せただろうか。多分、出せないだろうな。
携帯の画面を見て俯いていたからわからなかったけど、背丈や髪型だけじゃなくてこの人、顔も整ってる。男の俺から見てもかっこいいし。
しかもいい人…これは女がほっとかないな。なんて一人で勝手に納得しながらお会計を済ませた。

最後にありがとうございましたというとニコッと笑ってありがとうございましたと返してくれたのに「満点だ!」と失礼なことを考えながらも心の奥がほっこりとした。

人は見た目によらないな、俺も見習わなきゃな、あ、今度本屋さん行ってみよう。

そして俺は次のお客様をいらっしゃいませと迎え入れた。




続かない
かも続くかも

これは8割実話だったりする



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