NOVEL
□ある日の話
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時々思うんだ、オレはここにいていいのかって。
今日は部活が午前中だけだったので午後は皆でカラオケに行くことになった。
人前で歌うのなんてオレには絶対無理だから、行けない。
…ほんとは皆と遊びたいけど。
「オレは、う、歌えないか、ら」
そう言うと水谷くんはふんわりと笑って
「三橋に無理に歌わせるやつなんていねぇよ?オレは一緒に遊びたいんだけど…来ない?」
と言ってくれた。
本当は歌うのが嫌なわけじゃなくて(人前で歌えないのも確かだけど)、もしオレだけ一曲も歌わなかったり、いざマイク持っても歌えなかったりすると皆からどんな風に思われるのかが怖かったんだ。
でも水谷くんはオレがいてもいいと言ってくれた。
「…行く!」
そう顔を上げて言うと水谷くんが嬉しそうに笑ったように見えた。
受付を済ませて部屋に入って荷物を置いたらすぐ、飲み物を取りに行くために泉くんとオレは部屋を出た。
「コーラが2つでメロンソーダが3つ、ココア1つに…」
ぶつぶつ言いながら泉くんがジュースを汲んで、オレはお盆を持っていた。
次々とのせられる飲み物を零してしまわないように気をつける。
「…あと何だっけ」
「!え、と、カルピスが2つと烏龍茶が1つで、あと…」
「ジンジャーエールが1つか!」
「あ!うん!」
重たくなったお盆を抱えて部屋まで戻る。
「最初に歌ってんのは誰だと思う?」
「え!んー…」
「オレは田島だと思うぜ」
「た、田島くん!」
半磨りガラスなドアを開けると田島くんが歌っていた。
泉くんがにっと笑って「な?」と言った。
い、泉くんはすごい!
オレはこくこくと首を縦に振った。
「お、悪いな」
そう言って花井くんがお盆を持ってくれたのでオレは空になった手でゆっくりとドアを閉めた。
「トップバッターはやっぱり田島か」
「もう流石というかなんというか」
泉くんが巣山くんの隣に座った。
オレがどこに座ろうかとキョロキョロしていると阿部くんが少し寄ってスペースを空けてくれた。
「あ、りがとう」
「ん」
阿部くんはなんでもない風に頷いてメロンソーダに手を伸ばした。
田島くんの入れた曲は誰もが歌える有名なやつでマイクを持ってない人も一緒に歌っていた。
それから水谷くんが歌って花井くんも歌って、栄口くんと泉くんが一緒に歌った。
大体有名な歌を入れて、皆で口ずさみながらわいわいとした。
沖くんと西広くんも人前で歌うのは苦手らしくマイクを持って歌ったりはしないと言っていた。
「三橋も駄目?」
西広くんに言われて遠慮がちに頷くと
「だよなー!」
と沖くんが眉を下げて笑って言った。
それからジュースのお代わりを栄口くんと巣山くんが持ってきてくれて、阿部くんが歌って、田島くんと花井くんが歌った。
皆歌上手くて聴いてて楽しいし、ジュースもたくさん飲んでお腹もいっぱい。時々オレも口ずさんで歌った。
カラオケは昔家族で一回行ったことしかなかったから、ひとりひとり歌わされたりするのかと思ってたけど水谷くんの言う通り、そんなことはなかった。
オレはトイレに行くために部屋を出た。
迷子になりそうだ、ちゃんと部屋の場所覚えとかないと。
オレは慎重にトイレまで進んだ。
不思議な気分だった。オレは今皆と遊んでるんだ。
野球以外でもこんなに楽しいんだ。
心臓がどきどきした。
用を済ませて道を間違えないように戻る。自然と鼻歌がこぼれた。
あ、ここだ