NOVEL

□駆け引きはむり
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「ひともじひともじ」の水谷視点です。




メールの受信を告げる俺の大好きな曲が流れる。

誰から来たかなんてわかっている。彼だけの着信音、俺達の大好きな歌。

設定の7秒間の音楽が切れる前に携帯を開いて、ボタンを押して中断してしまうのは惜しいことだけど。

はやく、はやく。

心臓ががんがん鳴って煩い。

はやく、はやく。




*駆け引きはむり*




メールが開くまでの僅かな時間が恨めしい。


やっと開いたメールをざっと読んでもう一回、今度はゆっくりと噛み締めるように読む。


そして忙しく返信ボタンを押してかちかちと文字を打つ。


変なところはないか?
文字間違ってない?

さーっと自分が打った文面をチェックする。

「よし」

と小さく呟くと送信ボタンを押した。


見えない道を通って送られていく文字を想像して現代技術の進歩に思いを馳せた。




一息ついて、さっき来たメールを読み返してにやり、そしてぱたんと携帯を閉じた。


目をつぶるとさっきの着信音がじわりと頭に流れる。
栄口の着信音は俺の大好きな曲にしてある。この曲大好きなんだと言うと、俺も、とにっと笑った栄口がそれはもうかわいくて。
即、着信音に決定した。



返事はすぐには来ない。元々携帯はそんなに使わないと言っていたし、栄口も忙しいのだろう。


それに比べて俺は随分早く返信してしまう。
栄口には暇なやつだなとか思われてるのだろうか。


何かの歌にあったけど、返信ってはやくしちゃ駄目なんだってね。

駆け引きっていうの?
焦らすのもまたひとつの手ってわけ。

でもそんなの俺にはできなくて、メールが来たことが嬉しくてすぐ返事を送ってしまう。

5分以内に返す自信がある、ひどいときは20秒で返しちゃう。
駆け引きのかの字も掠ってないな、と苦笑する。


あれ、てことは栄口は駆け引きしてんのかな?!

…な馬鹿な。


はぁ、と息を吐いてベッドに転がる。
手持ちぶたさに前髪を指でくるくる回してみたり、枕の下に手を入れてみたり。枕の下ってちょっと冷たいんだよね。



するとまたさっきの着信音。
いつもよりはやいぞ、そんなことを考えながら携帯のボタンを押す。


う、わ

「…絵文字だ…」


いつも基本的に白黒のメールなのに、きらきらとにこっとした顔の絵文字がある。


些細なことでテンションが急上昇、こんなに嬉しくさせるのは栄口だけだ。



「う…、にやけすぎだ俺」



そしてまた俺はかちかちと返信ボタンを押す。







ひともじひともじの水谷サイド。
何かの歌はYUIのあのかわいらしいラブソングです。

フミキのメールはカラフル希望。絵文字使いこなしてそうだな。


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