NOVEL
□プレゼント for you
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12月25日。
そう、今日はクリスマス。
街はイルミネーションで飾られて、いたるところで軽快なクリスマスソングが流れている。
この時期になると、恒例の光景だった。
そんなお祭りムードの街を横目に自転車をとばす。
こんな大事な日に寝込んでいるという愛しの恋人のもとへ。
今日は部活が午前で終わるから午後から映画でも観に行って、帰りにCD買いに行って、俺の家でのんびりケーキでも食べて過ごそう。
もう1週間以上前から考えていたクリスマスプランが、1通のメールでがらがらと音を立てて崩れ落ちた。
『ごめん、熱出た。
部活も行けないから花井に伝えといて』
もともと絵文字は少ない方だけど、それがゼロの文面に栄口の体調の悪さが覗える。
正直、かなりショックだった。でも、そんなことでへこたれるわけにはいかない。
とりあえず、午前の部活を終え、電話をかけてみることにした。
呼びだし音がじれったい。
「もしもし」
「もしもし、栄口?」
聞こえてきた声は鼻声で眠そうだった。
「ごめん、熱出ちゃった」
「謝らないでよ、どのくらい出てんの?」
「んー…10時くらいに測ったら38.2度あった」
「うわ、結構出てるじゃん」
予想した以上に熱があることに驚いた。
「ごめん」
「え?」
「…映画」
栄口は風邪をひいて映画に行けないことをかなり気にしているようだった。
「そんなの、いつでも行けるじゃん、気にしないでよ」
「…ありがと」
「ところでさ、栄口がよかったらなんだけど…お見舞い行ってもいい?」
「え、うつっちゃうかもよ?」
「あー大丈夫、何とかは風邪ひかないって言うじゃん」
ふふっと笑う声が聞こえた。じゃあ、お待ちしてます、と言った栄口はきっと笑顔だったに違いない。
今すぐその笑顔に会いたいと思った。
でも、それからコンビニによったり、本屋によったりして栄口の家に着く頃には時計の針は3時を回っていた。
迎えてくれた栄口はほっぺが赤くて、どこかよたよたしていた。
「調子どう?」
「んー大分マシになったかな」
「あ、これ!いろいろ買ってきたから一緒に食べようよ」
「なんか気ィ使わせちゃったなー」
「いいって、ほら食べて食べて」
それから今日の部活の話とか、よってきた本屋の新刊の話とか、借りてきたCDの話とかをだらだらとした。
2時間くらい話し込んで、丁度タイミングを見計らってプレゼントを差し出した。
「あのさ、これ、プレゼントなんだけど」
赤い包装紙に緑のリボン、クリスマスカラーに包まれたプレゼントをカバンの底から出す。
すると栄口も「俺もある」と真っ赤な袋を出した。
「大したものじゃないんだけど」と俯き加減にプレゼントを渡してくれる。
俺もプレゼントを買うのは微妙に恥ずかしかったから、栄口はさぞかし恥ずかしかったことだろう。
そう考えると何だか、さらに嬉しくなってにやにやしてしまう。
「開けてもいい?」と聞くとこくりと頷いた。栄口もまた、同じことを聞いてきたので俺もまた頷く。
お互いがプレゼントをごそごそと開ける。
そして中から出てきたものに思わず声をあげてしまった。
「「あれ?」」
中から出てきたのはストライプのマフラー。
栄口が持っているのはボーダーのマフラー。
2人で顔を見合わせて笑った。
「びっくりしたー、まさかかぶるとは思わなかった」
「俺も。なんか同じ事考えてたんだなー」
それから、またお菓子を食べながらだらだらと話して、しばらくして栄口の部屋を出た。
「今日はありがと、なんか気ィ使わせちゃって」
「申し訳なく思ってる?」
「思ってる、映画も行けなかったし」
苦笑する栄口の隙を見計らって、そっと唇を重ねる。
熱で真っ赤なほっぺが更に赤みを増した。
「これでチャラね、じゃお大事に」
口をぱくぱくさせている栄口に手を振って俺は玄関を出た。
(あーこれで風邪引いたら、栄口もお見舞に来てくれるかな)
寒空の下、冷たい風に吹かれながら唇だけは熱っぽかった。
もちろん水谷は風邪をひきません(キリッ
栄口は滅多に風邪を引かないので熱が出るとかなりしんどい。
一方、水谷は頻繁に風邪を引くので多少の高熱でもピンピンしている。