NOVEL

□いつか
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夢を見た。



また、

また俺が独りになる夢を。



*いつか*



はっと目を覚ますと目の前に阿部君の心配そうな顔があった。

「う、お。あ、べ君」
「なんかうなされてたぞ、大丈夫か?」

今が合宿の最終日、帰りのバスの中であることを思い出す。
「うん、だ、大丈夫」

口ではそう言っているが背中と手のひらはうっすらと汗ばんでいた。
阿部君はそれを知っていたのか一瞬不満そうな顔をしたが、そうか、と言うとすぐに窓の方へ視線を移した。

ふぅ、と小さく息をもらす。



怖い夢だった。

昔は、中学時代、皆に嫌われていた時の夢をよく見ていた。
別に何をされるわけでもなく、ただ俺という存在がもともとないかのように無視をされる。
俺がいない。
ここにいるのに俺がいない。
それは本当に怖くて怖くて、本当にしんどかった。
目が覚めると目尻が濡れていることもあった。

でもこのことはゴールデンウイークの合宿で綺麗に忘れて、それ以来全く見ていない。
自分の中で一区切りついたのだと思っている。


でも今日の夢は違っていた。
自分を嫌っていたのは紛れもなくこの西浦の皆で、思い出してまた背筋に悪寒を感じた。

いくら名前を呼んでも誰も振り向いてくれなくて、また俺は独りだった。
そう、阿部君もこちらを振り向いてくれなかった。


少し思考に沈んでいた俺の頭にポンと手が乗せられた。
「…!」

「三橋、悪い夢を見たら誰かに話すといいんだって。」

最初何を言われたのかよくわからなかった。

ぼけっとしていたら、ほっぺをつままれた。

「いっ!」

「だから!何か変な夢見たんなら、俺に話してみろって言ってんの!」

そこでようやく理解する。
俺はこの人を頼ってもいいと。
そう、阿部君は言ってくれているのだと。

「お、俺!」



くだらない夢だと笑われるかもしれない。
それでも頼ろうと思った。
頼っていいと言ってくれた阿部君に聞いてもらおうと思った。


「…で、また、俺、独りになっ、て」

「あほか」

想像通りの反応にウヒッと笑うことしかできない。
でも、さっき阿部君が言ったとおり、話して楽になった。
そうわかって涙が出た。

「あ、う、ごめ」

泣いちゃいけないって思っても、涙は止まらないし、口はにやりとなるだけ。

「お前ってホント単純なやつだよな…」

うれし泣きなんて中学の時はしたことなかった。
いつも悲しくてこぼれていた涙が今は違う。

「俺は絶対にお前のこと嫌ったりしないから」

ポンと置かれた手がくしゃくしゃと頭をなでる。



いつか、
俺はこの人に恩返しできる日がくるだろうか。

いつか、
あの時はありがとうってちゃんと伝えられる日がくるだろうか。


俺は、もっとすごい投手にならなくちゃ。

阿部君に喜んでもらえるように。



いつか。









猫部の中のアベミハってこんな感じです。
三橋は阿部のことを尊敬していて、阿部は三橋が心配で放っておけない。
お互いが必要不可欠な存在なんです。


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