NOVEL

□さくらんぼ
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思うに。

いちごのように甘くもなく、
ふどうのようなみずみずしさもなく、
パイナップルのような酸味もないこの果実が好かれるのは、

まるで恋人達のようだからではないかと。




さくらんぼ




2人の距離は遠かった。
というか俺から見て彼は遠い存在であった。
俺の先輩であり、憧れであった彼は、現在隣で裁縫をしている。

「…ホント、器用だよな、浜田って」
「んー、そ〜か?」
明るい髪色をした男子高校生が、小さな針を見事に操ってボタンをつけている様は何ともいえない。

本当に器用だと思う。
本人は皆これぐらい出来るだろうと言っているが、そんなことない。

少なくとも俺は出来ない。

「できた」
「ん、サンキュー」

机に引っ掛けて取れてしまったボタンがいとも簡単に直っている。

あの頃からはどうやっても考えられない、この奇妙な関係。

まさか中学の先輩が高校で同じクラスになり、まさかボタンをつけてもらうなどと考えられる訳がない。


最初戸惑いはあった。
しかし、何もないように接してくる浜田を見ると、少し悩んでる自分が馬鹿みたいに思えて深く考えないようにしていた。

それでも時々感じる違和感。
浜田は何も思ってないのだろうか。

常に携帯しているだろう裁縫セットを片付けている浜田に声をかける。

「ボタンのお礼ー。あめしかないけど。どれがいい?」

メロンに、ぶどう、いちご、バナナ、りんごと色とりどりのフルーツのキャンディーを机に並べる。

「お、マジで?じゃ、これもらうわ」


「…さくらんぼ?」
中でも多く残っているさくらんぼのキャンディーは俺自身あまり好きではない味だったので少し驚いた。

「なんで、さくらんぼなの」

「なんでって…」
「さくらんぼってさ、微妙じゃね?なんつーか、そんなに美味しくないというか」

キョトンとしていた浜田が少し納得したように言う。

「あー…まぁ確かにそうかも」
続けて言う。
「でも、さくらんぼって結構皆好きだよな」
「ああ、俺にはわかんねぇけど」

「…かわいいからかな」

「はあ?」
思わず聞き返してしまった。

「いや、さくらんぼって2つくっついてるじゃん。あれが…恋人同士みたいでかわいいなとか思うんじゃない?」

「あー…まぁわからんでもない」

「だろ?だから俺もさくらんぼは割と好き」
「…女々しい」
「ははは…ひどいな」

あめを包んだ小さな袋には2つ並んださくらんぼの絵がある。

(恋人同士ねぇ…)

「俺もさくらんぼにしよかな」



その話を聞いてさくらんぼのあめの減りが早くなった。
それに気付いて、ひとり赤面するのはもうちょっと後になってから。




好きな人の話って結構自分に影響するものだと思います。
でも、泉は無自覚さんだったので、後で自覚して赤くなってるといいです。

個人的にさくらんぼ味の何かはさほど好きではありません。
でもかわいいから皆好きなんだろうな〜とか思います。

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