NOVEL
□soft or hard
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「あ、泉、髪に何かついてる」
髪先に手を伸ばす。
すると、思ったより柔らかい、黒い髪に指先が触れた。
「わり、サンキュー
……浜田?」
「え、あ、いや、これがついてたよ」
あー糸くずか、そういえばさっき…
そう泉が言っているのになんとなくしか聞こえない。
指先の感触がまだ残っている。
*soft or hard*
誰にでも先入観というものはある。
俺の中では黒髪の人というのは髪質が硬そうだというイメージが定着していた。
何でだろ、黒って重そうだからかな。
まぁ、もちろん勝手なイメージで根拠なんて何にもないんだけど。
それでも先入観というのはかなり強くて、
それなのに…
「柔らかかったなー…」
あの真っ黒な髪があんなにもふわりとしていたなんて。
びっくりしたというか、どきっとしたというか。
自分の髪を触ってみる。
染めて痛んだ金色の髪はキシキシとしていた。
ところどころ枝毛も見えたりしてお世辞にも触っていて気持ちいいとは言えない。
もう一度、あの髪に触れてみたい。
そう考えるのは少しまずい気もする。
そんな考えを知らない黒髪の少年は、隣で机に伏せて寝ている。
昼休みのにぎやかな雰囲気の中、こんなことを考えているなんて不謹慎だな、と思う。
手を伸ばせば届く距離。
触れようと思えば簡単に触れられる。
伸ばしかけて、ふと手を止める。
俺は何をしているんだろう。
でもすーすーと寝息が聞こえると、触れても気付かないかもしれない、という考えが頭を掠める。
伸ばしかけた右手をそっと伸ばした。
くしゃくしゃとその感触を楽しむ。
やっぱり柔らかい。ふわふわしていて気持ちいい。
するとその黒髪がごそりと起き上がった。
「…何?」
「え、その…」
「人の髪で遊ぶなよ」
そう言うと、むすっとした泉はまた顔を伏せた。
(怒らせたかなー…)
すると黒髪の間から真っ赤な耳が見えた。
(…うわー…そんな反応されると…)
かあ、と自分の顔が赤くなるのがわかる。
(まずいなー…)
浜田の先入観は正しく私の先入観です。
これがきっかけで浜田は泉の髪を触るのが大好きになるといい。