NOVEL
□ひともじひともじ
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「好きな人とのメールって何送ろうか悩むよなー」
っていう話をしてたのは昼休みの事だったなぁ、なんて思い出しながら俺は現在、まさにその状況に直面していた。
…携帯とにらめっこなんて笑えねぇぞ。
ひともじひともじ
携帯片手にベッドに寝ころんですでに15分。
文字を打っては考えて消し、また打って考えて消し、またまた打って考えて消しと繰り返し、いまだ文面は真っ白なままだ。
いつもこうだ。
内容は決まっているのにいざ文字を打ち始めるとおかしな文になっているような気がして何度も何度も打ち直す。
ぐだぐだ悩んでる間に時間はどんどん経ってゆく。
結局それからさらに10分考えてやっと送信ボタンを押した。
ぱたん、と軽い音が部屋に響く。
「むー」
小さく背伸びをして息をつく。
どうしてこんなにも1通のメールに悩まなくてはいけないのか。
まぁ、答えは今日クラスの奴と話していて出たんだけど。
前からなんとなくはわかっていたから、別に驚くこともない。
ただ、あのヘラヘラした奴にこんなにも振り回されているって考えるとちょっと腹が立つ。
30分近く悩んでメール打っても、5分も経たずに返ってくるなんて損な気がしてしょうがない。
…返事が返ってくるまでのたった5分が10分にも20分にも感じるんだけど。
そして、それが返ってこなかったら何かおかしなことでも言ったんじゃないかとはらはらする。
結果、ひとりで勝手にネガティブ思考になるのもまた事実。
「…なんかなぁ…」
突然、静かだった部屋に着信音が鳴り響く。
すると、思考はぱっと止まり、すぐさま携帯に視線を移す。
受信メールのところに表示された名前に頬がゆるむ。このときの嬉しさときたらこの上ない。
携帯の画面を食い入るように見つめる。
喜びも束の間、また30分かけて返事に悩む。
ひともじ、ひともじ、思いをこめてポツリポツリと文字を打つ。
やっぱり振り回されている。
こんなにも俺を一喜一憂させるのは水谷ぐらいだ。
「…ホント、振り回されてる…」
そしてまた俺はそわそわしながら送信ボタンを押す。
好きな人とのメールは緊張するよねって話。
水谷の返信が速いのは、できるだけたくさん栄口とメールしたいって思っているからで、決して好きじゃないとかそんなんじゃないです。
質より量か、量より質かって問題です。