NOVEL3

□チャイムが鳴る前に言え!
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◇◇◇





浜田は2年の教室に行ったと三橋が言っていたのでしょうがなくひとつ階をのぼる。
携帯、教室に置くなっつーの。何のための文明の機器だよ

大方梶山さんらのとこだろと検討をつけてずんずん進んでいたが思っていたよりも手前でその長身を見つけた。
声をかけようと思ったが、その隣に女子がいたので思わず柱に隠れてしまった。

何で隠れてるんだ俺は…と出ていこうとしたら浜田がその女子に包みを渡していたのが見えてまた引っ込む。
それは昨日俺も買った動物のクッキーだった。
何かタイミング悪いなあ…とため息をついてその成り行きを背中越しに伺う。

「気使ってくれなくてよかったのに」

「いや手の込んだのもらったから。おいしかったよ」

そういえば浜田がもらったチョコレートの中に手作りのやつがあった。大量に焼けるお菓子じゃなくてケーキのような手の込んだお菓子だった。あれはきっと本命、だろう。そのチョコレートを作ったのがこの人なんだろうなあと当たりをつける。

「あ、それね付き合ってる子と選んだからはずれてないと思うんだけど」


(あ、ばか)


一呼吸分空いて、そうなんだ、楽しみ!と明るい声で聞こえた。



わかっている、それは浜田の誠意であると。
作ってくれたチョコレートを断ることができなくて受け取ってしまったけど、伝えなきゃいけないって思っていたんだろう。

傷付けることをわかっていても言わないままにはいられなかった。
変なとこ正直なんだよな…厄介なやつ。

なんとなく鼻の奥がすんとした。





「あれ?田島と三橋は?」

「7組」

結局浜田には声をかけずに教室に戻ってきた。

「さっき担任が呼んでたぞ」

「え」

「昼休み終わるまでに職員室来いって」

このためにわざわざ探しに行ったのだ。

「うそ!ちょ、あと5分しかないじゃん!何で携帯鳴らしてくれなかったの!」

鳴らしましたけど。お前の机ん中から鳴ってましたけど。
そう言ってやると、うわ!俺バカ!とあたふたと教室から出ていった。




明らかに義理ではないチョコレートを見て俺は特に何も思わなかった。浜田も結構モテるんじゃねーか、という感想が浮かんだだけだった。

だけど今。
俺はものすごく複雑な心境だ。
今更ながら俺はあのチョコレートに焦っている。今回はたまたまさっきみたいに相手の好意を断るところを自分の耳で確認したが、これからこのような機会があっても俺が毎回出くわすわけがない。

それに浜田だってぐらつくんじゃないか。
俺は素直じゃないから普段思いを告げることなど羞恥にかられてできない。こんなやつよりちゃんと好意を示してくれる人の方がいいに決まっている。

そこで気付く。チョコレートにも焦ってる。もちろん浜田に好意を寄せる人にも焦っている。
しかしその比にならないほど俺は浜田に愛想を尽かされることに焦っているのだ。


俺は慌てた。
早く浜田に伝えなくては。
羞恥心なんかに負けてもっと大事なもの無くす前に、俺はちゃんと言わなくちゃいけない。

予鈴が鳴った。
皆が教室に入ってくるのに逆らって飛び出す。
人が少なくなった廊下の奥に目的の人物を見つける。

「はまだ」

小さく呼んでみる。
聞こえるはずがない。

「ッ浜田!」

びっくりした浜田が走ってくる。

「どうした?」

「俺は」

そういえば俺は今までちゃんと自分の気持ちを伝えたことがあったか?
情けないことにない気がする。
俺は浜田が言ってくれる言葉に甘えていた。自分は何にもしてないのに与えられる言葉にただ甘えていたのだ。ああクソ、今だって俺が呼んだから浜田が走ってきた。俺が走ればよかったのに。

「俺はお前のこと」

授業始まりのチャイムが鳴る前に言え。

「ちゃんと」

言うんだ。





すきだから


2011.3.14


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