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□12月の旅人
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12月の旅人 Winter Tourists


「ほんと、不思議だよなあ」

12月最初の休日、晴れ渡った空を眺めながらヨハンが呟いた。

「なにが?」

十代が問い返す。

「だってもう12月だぜ。なのに雪が降らないなんてさ」
「そうかあ?最近じゃ年内に雪振ることなんか滅多にないぜ。ホワイトクリスマスとか映画やドラマではあるけど、俺が憶えてる限り、この辺でクリスマスに雪が降ったことは一度もないな」
「そうか」

ヨハンは遠くを見つめる目をしていた。遥か遠い北の国、ヨハンの故郷は厚い雪に閉ざされている頃だろう。オーロラも見えるのかもしれない。

「雪、見たいのか?ヨハン」
「いいや」

ヨハンはかぶりを振った。

「今までいやってほど見てるから、わざわざ見なくてもいいぜ。ただ、どうにもクリスマスが近いって感じがしなくてさ。ところで何やってるんだ、十代」

十代は食い入るように12月のスケジュール表を見ている。自分のものとヨハンのものと。

「うーん、無理か」
「何が無理なんだ?」
「いや、年内にどっかで雪見にいけるとこないかなあ、と思ったけど。年末はどこも空いてないだろうし、前半は仕事がぎっしりで」
「じゅうだい」

ヨハンは微笑んだ。

「もういいって。今年は無理だけど来年は一緒にスウェーデン行こうぜ」
「うん、そうだな」

今年もあと少し。でも、来年もヨハンと一緒にいられる。
一緒にいろんな世界が見られる。

「ヨハン」
「ん?」
「ちょっと早いけど、来年もよろしくな」
「ああ。こちらこそ」

二人は微笑み合った。

「じゃあ、帰るか。ちょっと冷えてきたし」
「うん」

ヨハンの言葉に十代は頷く。
忙しい12月、今年はどこにも行けそうにないけど。
でも、一緒に帰る家がある。
そのことが何よりも嬉しい。
二人は歩き出した。
と、
ひらり、と何かが舞い落ちてきた。

「あれ?」

空を見上げる。
天に願いが届いたのか、故郷からヨハンへのプレゼントなのか。
ひらひらと雪が舞い散った。

「うわ、雪だ!」

十代がはしゃぐ。
だが、それはほんの一瞬の出来事だった。
すぐに雪は止んで、雲も切れ、先ほどと変わらない青空が広がっている。

「あれ、もう終わりかあ、つまんねー」

不満そうな十代の頭にヨハンはそっと手を置いた。

「ありがとう」
「え、俺何もしてないけど」
「何となくさ、十代が雪見せてくれた気がした」
「そうかな」
「俺がそう思うんだからそういうことにしとけよ。行くぞ!」

二人は駆け出す。
近いうちにきっと、一面の雪の上を二人で走ることが出来るだろう。
12月の旅人になって。

今はまだ、夢にすぎないけれど。

END

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