GX女性向小説

□恋はあせらず
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   We’ll Make Love

ヨハ十愛の劇場・月成美柑ヴァージョン



ここはDAの中庭。
大きな樫の木にもたれているのはアークティック校からの留学生、ヨハン・アンデルセンである。彼は今、悩んでいた。
悩みの種はただひとつ、ヨハンの親友にして恋人、遊城十代である。
出会ってすぐに意気投合した二人だったが、時がたつにつれ、ヨハンは十代をただの親友として見れなくなってきた。顔を見るとドキドキするし、近づいてくると抱きしめたくなる。その頬に触れ、唇にキスしたくなる。間違いなく、十代に恋している。
最初のうちは懸命に否定しようとした。今まで男にそういう気分になったことは一度もなかったから、親友として好きすぎるあまり、恋してると錯覚してるんだと思い込もうとした。
だが、無駄だった。日ごと十代を恋しいと思う気持ちは大きくなるばかりで、ついにある日意を決して打ち明けた。
「十代、俺はお前が好きなんだ。親友としてよりももっと。お前に恋してる。俺の恋人になってくれないか?」
逃げられるか、引かれるか、それとも笑い飛ばされるか、覚悟を決めていたヨハンだったが、十代の答えは予想外のものだった。
「ああ、いいぜ。俺もヨハンが好きだ。」
少しはにかみながら答えてくれた十代の表情をヨハンは一生忘れないだろう。
「本当に?本当にいいのか?」
「しつこいぞ、ヨハン」
頬を赤らめ、怒ったように答えた十代を抱き寄せ、唇を重ねる。十代は嫌がらずに受けてくれ、ヨハンは幸せを噛み締めた。


それがもう、かれこれひと月以上前のこと。
最初は有頂天になっていたヨハンだったが、そこからまた彼にとって新たな試練が始まったのである。


ひと月が過ぎてもキスから先に一歩も進まない。
そのキスですら、軽く触れるくちづけから少しでも深くしようとすると逃げられてしまう、まさに難攻不落の要塞だ。
一度、舌を入れようとして激しく拒まれたことに傷ついて、
「なんでそんなにイヤがるんだよ!」
と聞いたら
「変な気分になるからイヤだ!」
と言われ、かなり落ち込んだ。そんなにイヤなのか、でも軽いキスはいやがらないんだよな。
はぁー、とヨハンは大きくため息をついた。
「十代、お前、俺のことどう思ってるんだよ」
「好きに決まってるだろ」
「うわっ!!」
いきなり隣から声がして、ヨハンは飛び上がった。いつのまにか十代がそばにきていたらしい。
「じゅ、十代、何でここに?」
「何で、ってせっかく授業終わったのに姿が見えないから探しにきたんだろ」
「俺を、探しに?」
それはかなり嬉しい。だがヨハンの喜びは十代の次の台詞で半減した。
「ああ、ヨハン、早くデュエルやろうぜ!」
そうか、そうだろうな、そうだよな。ヨハンは再び大きくため息をつく。


本人には全く自覚がないが、十代はモテる。男女問わず、ここDAの生徒たちの大半は十代に気があるといっていい。特に翔をはじめ十代の取り巻きたちはみな十代に特別な感情を抱いている。だからヨハンは彼らを警戒していた。
だが、ヨハンにとって最大のライバルは、学園一の美女、天上院明日香でも、やたらと十代にくっついてくる早乙女レイでも、「アニキ、アニキ」と追っかけまわしている丸藤翔やティラノ剣山でも、いつもつっかかってくるくせに誰よりも十代を意識している万丈目準でもない。本当の最大のライバルは「デュエル」だった。


ヨハンは当然デュエルが好きだ。特に十代は学園一の腕前だからアークティック校チャンピオンのヨハンにとってよきライバルだ。十代とデュエルするのは楽しい、でも。
俺達恋人同士じゃないのか?デュエルばっかりやってるんじゃただの友達と変わりないじゃないか。
十代の頭の中はいつもデュエルでいっぱいだ。
たまには、俺のことでいっぱいにしてくれないか?


「なあ、十代」
「んっ?」
「俺、たまにはデュエル以外のことがやりたいんだけど」
「へっ?やりたいことって?」
無邪気そのものの顔をして聞き返されると、なんだかまた傷ついた。少しは俺の気持ちをわかってくれよ。
「だからその、たとえばmake love、とかさ」
つい言ってしまってから、ちょっと大胆過ぎたかな、と思った。まだまともなキスもしてないのに。でも、恋人同士だったら、いつかは、っていうか、近いうちにはそうなるんだし。だが、ヨハンの思惑など、次の十代の衝撃的な一言で吹き飛んだ。
「めいくらぶ?五月のカニはうまいとか、そういうことか?」


駄目だこりゃ、さすがに脱力して何も言えなくなった。
いくら物知らずでも、カニはないだろ!
黙り込んでしまったヨハンが心配になったのか十代が声をかけてきた。


「なー、ヨハン、どうしたんだよ、気分でも悪いのか?」
「十代」
ヨハンは十代の両肩を掴んだ。
「十代、お前、俺の恋人になってくれるって言ったよな」
「う、うん」
ヨハンは大きく深呼吸した。
「だったら、今日、デッキは持たずに俺の部屋に来てくれないか?」
そう言うとヨハンは十代の返事を待たずにその場を立ち去った。








ブルー寮の自室で、ヨハンは十代を待っていた。
ヨハンにとって、これはひとつの賭けだ。デュエルがなくても十代がヨハンの元に来てくれるかどうか。もし来てくれなかったら十代のことはきっぱりあきらめよう、辛いけど、それがお互いのためだ。
それにしても遅い、やっぱりデュエルをしないと俺には何の魅力もないのかな、とヨハンが落ち込んでいた時だった。
トントン、とドアがノックされた。ヨハンは弾かれたように立ち上がり、ドアを開いた。
そこに立っていたのは。
「十代!!」
来てくれた。なんだかもうそれだけで報われた気分だ。
「遅くなってごめん、デッキ置きにレッドまで行ってたからさ」
約束通りデッキも置いて。ヨハンはドアを閉めると十代を抱きしめた。
「でさ、ヨハン。やりたいことって何なんだ?」
そうだった、どう言えば十代に伝わるんだろう。
「デュエルもいいけど、たまには恋人らしいことがしたいんだよ」
そう言って、ヨハンは十代を抱きしめた腕に力を込めた。すると十代はヨハンの背に腕を回して抱きついてきた。ヨハンの心臓が跳ね上がる。
「こういうこと?」
「う、うん。そうだけど、できればもうちょっと先まで」
「そうか、わかった。」
十代はそう言うと。ヨハンの腕から逃れ、何を思ったのかベッドの方へ歩き出した。そしてそのまま靴を脱いでベッドに上がるとこう言った。


「じゃあ、やろうぜ、ヨハン」
「やっ、やろうって十代―!!」


ヨハンは思わず叫んだ。
なんというストレートな発言、なんという急展開。十代の思考にはとてもついていけない。が、目的は一緒っていうか、せっかく十代が決心してくれたんだし、ムードがないとかそういうことは置いといて、ここは先に進むしかない。
ヨハンは上衣を脱いで椅子にかけるとベッドに上がった。
「でも、本当にいいのか?」
「本当にヨハンはしつこいな、キスのときもそうきいたぞ」
それはそうだが、今回はキスとは違う、わかってるのかな。ヨハンは思ったが、好きな人にベッドに誘われては引き下がれない。
「十代」
ヨハンは十代を抱きしめてくちづけると、そのままゆっくりと押し倒した。柔らかなクッションが十代の体を受け止める。ヨハンが頬から首筋へと唇を這わせながらベルトに手をかけたときだった。
「やっぱ、無理!」
そう言うなり、いきなり十代が起き上がった。
「はっ?」
無理って、ここまできてそれはないだろう。全開でアクセル踏み込んだとたんに急ブレーキをかけられた気分だ。
「だってやろうって言ったの十代だろ!」
「だって、何かヨハン怖い」
十代は涙ぐんでいた。泣かせるようなことはまだしてないぞ。
「別にいつもと変わりないだろ」
「特に目がコワい!目がマジ!!」
「そう?」
って、お前なあ。
「これから何するつもりだったんだ?」
うすうす感じていたことではあったけど、やっぱり知らなかったんだ。とんだお子様だよなあ。ここまできて生殺しもいいところだけど、あきらめるしかない、のかな。けっこう、いや、かなりつらいけど。
「あのな、十代、今日はもういい」
「へっ?エッチなことしないのか?」
その程度のことはわかってたのか、でも具体的なことを何もわかってないんじゃなあ。
「でも」
十代はそう言うと上目使いでこちらを見た。やめてくれ、今その目つきは、なけなしの理性が飛びそうになる。
「ヨハンのかたくなってる、俺それくらいはわかるぜ。」


一瞬、頭の中が真っ白になった。またしても、あまりにストレートな発言。そんなこと言われてどう切返しゃいいんだよ。気まずい沈黙が続く。


「い、いや、気にするなよ」
「そう、ごめんな」
正直いってものすごくつらい。でも十代のためには我慢しなきゃ、ヨハンはそう自分にいいきかせ十代から離れようとした。が、少し着衣の乱れた十代の姿が視界に入るとその決意はあっさりと覆された。やっぱり十代がほしい。


「十代」
「は、はい」
「まだ俺のこと怖い?」
できるだけ優しく尋ねた。
「ううん、今は怖くないぜ。」
「じゃあ、続きしても大丈夫じゃないか?」
俺の状態を指摘した以上、どれだけつらいかもわかってくれるだろう。
十代は暫く途惑っているようだったが、やがて、少し顔を赤らめると、
「じゃあ、してみるか」
と言ってくれた。でも、さっきの二の舞じゃ困るしな、どうしよう。出来るだけ怖がらせないためには。
「じゃあさ、ずっと目を閉じて」
そしたら、目が怖いとか思われないし。
「お、おう」
十代が、ぎゅっと目を閉じる。まるで注射を待っている小学生みたいな表情だ、ヨハンは苦笑した。
そんなに怖かったのか、確かにさっきは十代が欲しくてたまらなくてちょっとあせりすぎてたのかも。
ごめん、十代。その気持ちを込め、ヨハンは十代の額に優しくキスした。そして、閉じられた両のまぶたにも。
「もう、目あけていいぞ。」
おそるおそる、という感じで目を開けた十代に、ヨハンは微笑みかけた。
「好きだぜ、十代。」
そう告げると十代もにっこりした。
「俺も、大好きだぜ。」
言うなり、十代はヨハンの首に手を回して唇を重ねた。十代からキスしてくれるのは初めてだな、とヨハンが思った時だった。おずおずと十代の舌がヨハンの口中に忍び込んできたのだ。
(じゅう、だい!)
ヨハンの頭の中で小さな爆弾がいくつも弾けた。夢中で十代の舌を捉えると自らの舌と絡み合わせ、そのまま十代の体を横たえるとさらに深いキスを続ける。ようやく唇を離すと十代は荒い息を吐いていた。
うるんだ瞳が、ふだんの無邪気な姿からは想像もできないほど色っぽい。
ヨハンは十代の耳にくちづけると、耳たぶを甘噛みした。
「ああっ!」
十代はビクッと体を震わせると小さく叫んだ。
感じやすいんだ、かわいいな、とヨハンが思っていると
「ヨハン、俺」
「ん?」
「俺、ものすごく変な気分」
え?変な気分って、前にディープキスを拒まれたときに言われた言葉だったよな。あれ?もしかしたら。ヨハンは十代のわき腹に手を添えるとつうっーとなで上げた。
「あうっ!」
十代の体が跳ね上がる。
「変な気分って、こういうこと?」
十代は何度も頷く。と、いうことは。あのときディープキスで感じそうになって、初めてのことに途惑って拒んだってことなんじゃ。
つまり、十代はほんとに俺のことが好きだってことで。
「じゅーだい!」
幸せすぎてどうにかなりそうだ。
「よ、はん」
「それは感じてるってこと、もっと感じてくれよ。」
「俺、変じゃないのか?」
そんなこと気にしてたのか、ああ、もう今すぐにでも食べてしまいたいくらいかわいい。
「全然変じゃない、十代がこんなに感じやすくてうれしいぜ」
ヨハンは十代の上衣を脱がせると、首筋から胸元へとキスの雨を降らせた。そのたびごとに十代は甘い声を上げる。
「あ、ヨハン、ヨハン!好き」
時々うわごとのようにつぶやく十代を見て、ヨハンは幸福感に包まれた。
今、間違いなく十代の頭の中は俺でいっぱいだ。
愛撫を続けながらヨハンは十代のベルトを外し、ジーンズのボタンに手をかけた。
十代はもう抵抗しなかった。


そう、恋はあせっちゃいけない。ゆっくりと、お互いに歩み寄りながら。


We’ll make love.


END



Kimibouさま、ペンコさま、小説かかせていただきありがとうございます。
とても楽しかったです。

十代が好きすぎるあまり不安なヨハンです。「俺とデュエルとどっちが好きなんだ!」みたいなね。十代の「好き」はわかりにくいし。

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