GX女性向小説
□天空の至福
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="天空の至福 " Amusement Paradise
よく晴れた日曜日、十代とヨハンは遊園地に来ていた。
ヨハンは少々不満だった。
ジェットコースターに、ホラーハウス。恋人同士の定番のアトラクションを回ったのだが、十代ときたら、何をみてもはしゃぐばかりで全く動じない。
ホラーハウスなんか、ヨハンの方が怖かったくらいだ。十代の手前、必死で耐えたけど。
(怖い!とか言って、しがみついてほしかったんだけど)
十代の無邪気そのものの横顔を眺め、ヨハンは密かにため息をついた。
「あ、観覧車!あれ乗りたい!」
観覧車!その手があったか。
「そうだよな、遊園地といえば観覧車だよな、早く行こうぜ」
言うなりヨハンは十代の手を引っ張ると走り出した。
「ヨハン、走るの速すぎ!」
ヨハンの思惑など知る由もない十代が抗議するが、ヨハンは聞いていなかった。
ゆっくりとゴンドラが降りてくる。二人は係員に促され、乗り込んだ。
カシャン、と音を立てて扉が閉められる。もちろん安全のため、内側から開けることは出来ない。
上昇を始めたゴンドラに、十代は目を輝かせて外の景色を眺めた。
ヨハンは、最初、向かい側の座席に座っていたが、隣に移動し、十代の肩を抱いた。
そしてそのまま十代のあごを持ち上げ、口付ける。唇を吸われ、舌を絡められ、十代はもがいた。
ヨハンが唇を離す。
「ヨハン、何すんだ。景色見えないだろ!」
頬を紅潮させ、十代はヨハンに抗議したが、その瞳は潤んでいて、ますますヨハンを煽る結果にしかならなかった。
「ふーん、だったら」
ヨハンはそう言うと十代の後ろに回り、背後から抱きしめた。
「これなら問題ないだろ」
「そういう問題じゃな、あうっ!」
耳朶にヨハンの熱い息を感じ、十代は思わず声を上げた。
「誘ったのは十代だぜ」
「誘った覚えなんか、やめろって」
「誘ったじゃないか、観覧車乗ろうって」
ヨハンの唇が首筋へと移動し、シャツのボタンが外される。
「やっ、俺はそんなつもりで、ああっ」」
「十代、かわいい」
ヨハンの指が肌を滑る。
ゴンドラが上昇する。
地上が次第に遠ざかってゆき、天頂へと近づいていく。
それに合わせるかのように、十代も次第に昇りつめてゆく。
天頂へ、向かって。
頂点は目の前だ。ゴンドラが高みを極める地点。そして、十代もまた限界点を迎えつつあった。
「ああ、ヨハン、ヨハン、もう」
「じゅう、だい、俺、も」
ヨハンにしっかりと抱きかかえられ、その「時」を迎える。
天空の高み、十代の瞳から、すうっと一筋、涙が零れた。
「愛してる、十代」
ヨハンの声を遠くに聞きながら、十代は意識を手放した。
ゴンドラは地上へと降りてきた。
扉が開けられ、中から二人の少年が出てきた。
そのうちの一人は足元がふらついていて、気分が悪そうだ。
もう一人の少年に支えられて、彼はゴンドラから降りた。
「どうなさいました?ご気分でも?」
「上の方、けっこう風が強くて揺れたんで、ちょっと酔ったみたいです。少し休めば大丈夫ですよ。」
係員の問いに、友人を支えている方の少年が答える。
嘘つけ!
十代はしゃあしゃあと言い抜けるヨハンを睨んだ。
何が風が強くてだ。揺らしたのはお前だろ!
十代はヨハンに支えられながらタラップを降り、ベンチに座った。
「十代、落ち着いたら、そろそろ帰ろうぜ」
「ああ」
正直、もうアトラクションどころではない。
「俺、まだ全然足りてないからさ」
何を言い出すんだ。
「天空の至福もいいけど、今度は地上の楽園を味あわせてやるよ」
そう言ってヨハンは素早く十代の頬にキスした。
END