GX女性向小説

□青い薔薇にkiss
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   Blue Rose



ひさしぶりに、しかも突然に、スケジュールがぽっかり空いた。

英国の古城、十代とヨハンはその庭園に来ていた。


「なんで薔薇ばっかりなんだ、ここの庭は」
「薔薇はイギリスの国花だからな」

十代の言葉にヨハンが答える。

「ふーん、ヨハンは物知りだな、いつも思うけど」
「そうでもないけどさ」

このあたりは紅薔薇のゾーンらしい。さまざまな形と、微妙に色の異なる赤い薔薇が互いの美しさを競うように咲き乱れている。

紅薔薇の中に立つ十代はどんな名画よりも美しいな、と、ヨハンは思っていた。


「何だよ、ヨハン」
ヨハンの視線に気づいた十代が言った。

「あ、いや。十代はほんとに赤が似合うな」
「そうかあ?まあ、確かに赤は好きな色だけど」

青、も好きだな。十代は心の中で付け加えた。
ヨハンは青が似合うから。


「ほんとにきれいだな」

ヨハンはそういいながら、傍らの深紅の薔薇にくちづける。
透き通るように白いヨハンの肌に、真っ赤な薔薇のコントラストはこの上もなく妖艶で、十代の胸は早鐘を打ち始めていた。

「どうした、十代?」
「あ、いや、何でも」

たぶん赤くなっている顔を見られないように十代は視線をヨハンからそらした。

「あ、あのさ、ヨハン」
「ん?」
「ここってずいぶんいろんな色の薔薇があるけど、青い薔薇ってないんだな」

ふふっ、とヨハンは笑った。

「Blue Rose」
「へ?」
「青い薔薇は、”不可能”とか、”ありえないこと”っていう、英語の慣用句なんだ」
「ふうん、なんで?」
「青い薔薇は天然には存在しない。」
「なんだ、そうなのか」
「でも、青い薔薇を作るのは世界中のバラ作りたちの夢らしいぜ。ここにも確か青い薔薇のゾーンがあるはずだ。行ってみるか?」
「ああ」

二人は庭園の奥へと歩を進めた。

「ええと、確かこのあたりが青薔薇のゾーンかな」
「ふうん」

十代は答えたがどうもピンとこない。
(ほんとに青なのかよ、これ)

「そこにあるのが”スターリング・シルバー”古典的な青薔薇だな」
「これがあ?紫じゃん」

十代の抗議にヨハンはクスッと笑う。

「その右が”ブルーリボン”」
「ブルーリボン?白だろ、これ」
「まあそう言うなよ。それからそっちが”ベン・ムーン”」
「どう見てもピンクだな」

やれやれ、とばかりにヨハンはため息をついた。

「だからさっきも言ったろ。青い薔薇は存在しないって」
「そうだけど、なんで青い薔薇はないんだよ。赤はあるのに」

ヨハンは十代の顔をじっと見つめた。

「その昔、花の女神フローラは世界で一番美しい花を作りました。それが薔薇です。でも、そのとき、”死”を連想させる青い色の薔薇だけは作ることができませんでした。だから今でも青い薔薇はないのです。」
「ホントか、それ?」
「伝説」
「なんだ」
「実際のところは、もともと薔薇には青い色素がないらしい。だからどんなに努力しても純粋な青い薔薇はできないんだ。だから、不可能。」
「つまんねーの」
「じゅーだい」

ヨハンは十代の顔を両手で挟んだ。
ぱあっと十代の顔が赤くなる。

「なんでそんなに青い薔薇にこだわるんだ」
「あ、いや。それは」
「正直に言ってくれないと悲しいな」

少しも悲しそうにみえない顔でヨハンが言った。
でも、こういうヨハンに十代は逆らえない。

「さっき、ヨハンが赤い薔薇にキスしてたから」
「ふーん、それで?」
「だから、青い薔薇があるんならキスしてみたくなって。言わすな、バカ!」

ヨハンはクスクス笑った。

「じゅ、十代、かわいすぎ」
「うるさい!」

真っ赤になった十代をヨハンはうしろからやさしく抱きしめた。

「十代」

ヨハンの指が十代の顎にかかる。

「薔薇じゃなくてこっちにキスしてほしいな、俺としては」

ヨハンの顔が間近に迫る。


濃密な薔薇の香りのなか、二人は見つめあい、そして唇を重ねた。


Blue Rose

青い薔薇にキスすることはできない。

だけど、ヨハンの唇は、俺のものだ。

きっと、永遠に

                                      END

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