GX一般向け小説

□こわいんだ
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GX一般向小説

こわいんだ・・・
   


     
 
「えーと、ここでこのトラップを発動させるとすると、待てよ、それよりもこのモンスターの効果をうまく使えば」

ヨハンはさっきから熱心に構築済みデッキの研究をしている。
きれいに整ったその横顔をみながら、俺はここ数日ばかりのことに思いを巡らせていた。
思えば数日前、放浪の果てに追い詰められていた俺を救ってくれたのは、他でもないこのヨハンだった。

童実野町の河原でヨハンに会ったときは本当に驚いた。
ヨハンはとっくに遠い祖国に帰ってしまっていて、もう二度と会えないだろうと思っていたし、その方がいいだろうとも思った。
俺とヨハンの人生は、ヨハンがDAに留学していた、あの数ヶ月間クロスしただけで、あとは永遠に離れてゆくものだと思っていた。
ちょうど、斜めに引いた二本の直線が一度交わると、あとは限りなく離れていくように。

この前、ヨハンにそう言ったら、

「何で永遠にまっすぐ進む必要があるんだよ。俺はおまえに会うためだったら、曲がりもするし、Uターンもする。絶対会いたいと思ったら、できることはなんでもする」って、やけに真剣に答えてくれて、何だか胸が痛くなった。

「絶対会いたい」とヨハンに言ってもらえる価値が俺にあるんだろうか。タッグパートナーを見つけるためだとはいえ、大変だったと思う。スウェーデンと日本は本当に遠い。「直行便がないから、余計に遠い気がするよな」ってヨハンも言っていた。そこまでお互い遠い国に生まれて、俺たちは出会えただけでも奇跡みたいなもんなんだ。

なのに今、当たり前のように俺のそばで真剣にカードを吟味しているヨハンがいる。それがとても嬉しくて、貴重な時間だっていう気がする。

ずっとこんな毎日が続けばいい、とつい思ってしまう。でも、でもそれが恐いんだ。いつまでこうしていられるんだろう、そう思うと苦しくなるときがある。

いつか別れる日が来たら、平静でいられるだろうか、例えば握手して笑って「今までありがとう」ってヨハンを送り出せるだろうか。
長く一緒にいればいるほど、その日が来るのが恐くなる。


だからといって、「絶対別れたくない」なんて俺には言えない。
ヨハンなら言うだろうか、まさか、な。
俺は確かにヨハンの親友でタッグパートナーだけど、ヨハンの人生を縛る権利なんてないんだ。
それに、


 「君は人知を超えた存在となった」


斎王の言葉が重くのしかかる。これから俺の人生には何が起こるかわからない。出来れば、いや、絶対にそんなことにヨハンを巻き込みたくはない。

今でも時折、レインボードラゴンとともに光の中に消えていくヨハンの姿がよみがえって、たまらなく怖くなることがある。もう絶対にあんなことはさせない。たとえ二度と会えなくなっても、元気で生きていてくれればそれでいい。そう思っている、つもりだったのに。

いつまでもこうしていたいと思っている自分に気付いてしまった。


俺の視線に気付いたのか、ふとヨハンが顔を上げた。

「どうした、十代?」
「いや、そっちのトラップを発動させる前に、このマジックを先に発動させた方がモンスター効果が生きると思うぜ。」
「ああ、そうか。やっぱり十代は頼りになるぜ」

ヨハンはにこっと笑った、と思ったら急に真顔になった。
澄み切った緑の瞳に見つめられるとどきっとする。
俺の考えてることをすべて見透かされてしまいそうだ。

「なあ、十代」
「ん?」
「いつまでもこうしていられればいいな。」

えっ!?今なんて。今のは俺のさっきまで考えていたことなんじゃ。やっぱり俺の考えていることがわかったのかな。
どぎまぎしていると、ヨハンがくすっと笑った。

「なんちって、俺だけか」
「えっ!?」
「コーヒー淹れてくる。ちゃんとカフェオレにしてやるからさ、もう一組、把握しておきたいストラクチャーデッキがあるんだ。付き合ってくれよ。」
「あ、うん」


でも、もしかしたら。
ひょっとしてヨハンも同じこと考えてた?
キッチンに消えていく後姿を眺めながら俺はまだどきどきしていた。



              END



ひょっとしなくてもそうですよ、十代くん。でも多分ヨハンはちょっと傷ついてると思います。今頃キッチンでルビーとキャットねーさんに慰められてるだろーな。
どれだけヨハンに思われてるか全く気付いていない、十代の鈍感さは罪ですね。
自分の運命を思い、いつか来る別れを恐れている十代。ヨハンは一生でも一緒にいる決意を固めて日本に来ていると思うんですけど、十代の方は、ヨハンはタッグパートナーとして自分を探しに来たと思っているんですね。このじれったい関係は当分続きます。

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