GX一般向け小説

□黄昏の決意
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一般小説・黄昏の決意

黄昏の決意

(この小説は残照の誓いの逆サイドです)

辛く、やるせない思いを抱え、ヨハンは階段を下っていった。
思わずため息が出てしまう。
ヨハンの帰国に伴う、十代との別れ、それはずっと前から決まっていたことだったし、覚悟していたことでもあった。

だけど、
よもやこんな形の別れになるなんて思ってもみなかった。
うまくいえないけど、たとえば、これまでどんなに楽しかったとか、いつかきっとまた会いたいとか、何も言わなくても目と目で語り合うとか、そんなふうでありたかった。

なのに、
さっき十代は一度も俺の目を見てくれなかった、ヨハンは唇をかみしめた。
俺達はただの友達じゃない、何か特別な絆で繋がっているんだ、とずっと思っていた。でも、それはただの身勝手な思い込みだったのかもしれない。

いや、ヨハンは頭を振った。そうは思いたくない、あの時からだ、十代が異世界から帰ってきたとき、明らかに雰囲気が変わっていた。以前の明るくて無邪気で常に人を引き付ける十代の面影はなく、まるで氷の鎧を纏っているかのように冷ややかで人を寄せ付けなくなっていた。

十代のおかげで、ようやくヨハンが意識を取り戻したときまで、十代の様子に変わったところは見られなかった。多分、ユベルとの最後の戦いの後、何かが起こったんだろう。
こんなことなら、十代にデッキを託したりせず、無理にでも一緒に行けばよかった。そうすれば、こんな思いをせずにすんだのかもしれない、例え命を落とそうとも。

ヨハンがそう思った時だった。
(よ・は・ん)
「えっ!?」

今、十代の声が聞こえた。
ヨハンは階上を振り仰いだ。屋上へ続く階段は一つしかない、だが、どこにも十代の姿は見えなかった。

「空耳かな、十代のことばかり考えていたから」

ヨハンは思わず呟いた。だが次の瞬間、
(ヨハン、ヨハン!ヨハン!!)
胸の中に十代の声が響いた。切迫した、振り絞るような声、いや違う「思い」だ。

「十代!!」
ヨハンは踵を返すと階段を駆け上った。
そう、今のは「声」じゃない。声は届かなくても「思い」は届く。ヨハンを求める十代の魂の叫び。

屋上にたどり着くと十代のもとへと駆け寄る。その頬に伝う涙、氷の鎧を脱いだ素の十代がいた。

ごめん、ごめん十代、気付いてやれなくて。
何も言うことが出来なくて、一番辛かったのはお前の方だ。
もう、お前に何が起こったかなんてどうでもいい、お前が何であろうと、俺にとってお前はかけがえのない友だ、その思いを込め、ヨハンは十代を力いっぱい抱きしめた。
伝わるぬくもり、真実はそれだけでいい。

「なんで戻ってきたんだ」
「十代の声が聞こえた」
「俺は、俺は」
「いいんだ!」

言えないのなら、それでいい。もし無理に言葉にすれば、きっと十代の心は血を流すだろう、そんなことはさせたくない。

「何も言わなくていいから。だが、これだけは覚えておいてくれ。どんなに変わっても俺は出会った頃と変わらず、いや、それ以上にお前が好きだ。世界中どこにいてもお前の声はきっと俺に届く。誓うよ十代、その時は必ずお前のもとに駆けつける。」

「ヨハン」
ああ、やっと声が聞けた。
「十代」
ヨハンは抱きしめていた腕をほどくと十代の髪に触れた。そして、こつん、と額と額を合わせる。

「やっと名前読んでくれた、それだけで充分だ。」
「ヨハン、ありがとう」

十代は頬に涙の跡を残したまま、わずかに微笑んだ。

そう、今は何も訊かない、でも「知りたくない」わけじゃない。
もし、言葉に出すことで、少しでも負担が軽くなる、そんな時が来たら。
たとえ、それがどんなに俺にとって辛いことでも、信じたくないことでも、絶対に受け止めてみせる。

だから、
ヨハンは十代の瞳をしっかりと見返した。

だから、俺はもっと強くなる、今よりもずっと。
いつかきっと、十代のすべてを受け止められるように。

残照が黄昏に変わろうとする、アカデミアの屋上で、ヨハンはそう心に誓った。

                                          END

いかがでしたでしょうか?
階段を駆け上るヨハンが書きたかったんです。
ヨハンは十代が人間でなくなったとしても全然気にしないと思う。多分十代も言いたいんだと思うんだけどな。言えない気持ちもわかる。

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