GX一般向け小説

□残照の誓い
1ページ/1ページ

一般小説・残照の誓い

残照の誓い

胸の裡にさまざまな思いを抱え、十代は階段を昇っていた。やがてたどり着いたのはDAの屋上。
先に来ていた彼の親友が振り返る。
丁度、夕陽が落ちようとする頃で、夕映えに照らされたその瞳はいつも以上に美しく見えた。
そう、ここは二人が初めて出会った場所だった。

*残照の誓い A Promise of Afterglow

「呼び出して悪かったな」
ヨハンの言葉に十代は無言でかぶりを振った。
「俺、明日帰るんだ。」
やはり無言で頷く。何か言わなきゃ、頭ではわかっていても言葉にならない。

ヨハンは穏やかに、そして優しく微笑んだ。
そんな、そんな顔しないでくれ、胸が、痛い。俺はもう、
十代は唇を噛んだ。

誰よりも大切な親友だ、いや、だった。だってもう、俺にはその資格がないから。
”明るく笑って別れよう”出会った頃はそう決めていた。もう会えないかもしれないから、なおさら。

けれど、俺はもう、あの頃のようにまっすぐにお前の瞳を見返すことが出来ない。なぜなら、あの頃の俺と今の俺は「違うもの」だから。

もはや親友からどのような言葉も引き出すことは出来ないと悟ったのだろう。
ヨハンは右手を十代の肩にかけると、ひとこと
「元気でな」
と言った。
細い肩、華奢な体つきはいっそ儚げにさえ見える。ヨハンの胸は締め付けられるように痛んだ。

出会った頃の十代は、あふれんばかりの生命力でまわりみんなを明るくする、まさに太陽のような存在だった。今と変わらず、高校生の男とは思えないほどほっそりとしていたが、間違っても「儚い」などという言葉は似つかわしくなかったはずなのに。

(何があったんだ、なぜ俺に何も言ってくれない?!)
この細い肩を揺さぶって、そう訊いてみたい。これまで何度思ったかしれない。
けれど、出来なかった。
訊いたところで十代はきっと何も言わないだろう。そして、その問いかけは今以上に十代を追い詰め、苦しませる結果にしかならない、そう知っていたから。
「じゃあな」
そう言って、ヨハンは十代の横を通り過ぎ、階段へと向かった。

遠ざかる足音。
それが聞こえなくなるまで十代は振り向かなかった。
そして、静寂が訪れるのを待って体ごと向き直る。勿論もうヨハンの姿は見えない。
自ら望んだことなのに、胸にぽっかりと大きな穴が開いたような空虚さを感じた。
さっきまで輝いていた夕陽は落ちて、仄かな残照に浮かぶ校舎のシルエットは余計に淋しげに見えた。

もう、会えない。いや、もう二度と会わない。
「よ・は・ん」

ようやく声が出た。それと同時にこらえていた涙が溢れた。
「ヨハン、ヨハン!ヨハン!!」
何度もその名を呼ぶ。もう決して聞こえるはずがないとわかっているのに。

その時、
「じゅうだーい!」
ヨハンの声が聞こえた。きっと空耳だ、だってヨハンはもう。

次の瞬間、十代の瞳は一直線に彼の元へ駆け寄るヨハンの姿を捉えた。
階段を駆け上ってきたのだろう、息を弾ませ十代のもとにたどり着くと、その細い体を力いっぱい抱きしめた。

「なんで、戻ってきたんだ」
「十代の声が聞こえた」
ヨハンは十代をきつく抱きしめたまま、そう言った。
「俺は、俺は」
「いいんだ!」
ヨハンは十代の言葉を遮った。
「何も言わなくていいから。ただ、これだけは覚えておいてくれ。お前がどんなに変わっても、俺は出会った頃と変わらず、いや、それ以上にお前が好きだ。世界中どこにいても、お前の声はきっと俺に届く。誓うよ十代、その時は何をおいても必ずお前の元に駆けつける。」

「ヨハン」
胸の中に暖かいものが流れ込んでくる気がする。
「十代」
ヨハンは抱きしめていた両腕をほどくと十代の髪に触れた。そして、こつん、と額と額を合わせる。
「やっと名前呼んでくれた、それだけで充分だ。」
「ヨハン、ありがとう。」

ありがとう、何も訊かないでくれて。俺を、好きだ、って言ってくれて。
言葉にならない思い。
けれど、きっと伝わった。だから、

それ以上の言葉は、もはや不要だった。

残照も消えようとする屋上の一角で、二人は互いの顔が見えなくなるまで、それぞれの瞳を見返していた。

                  END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ