GX十代女体小説
□名残りの雪
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名残りの雪
Snow Flake
今日は3月14日。日本ならではの慣わし、バレンタインデーのお返しをする日である。
「ホワイトデー?」
十代は目を見開いた。
「そんなのいいよ。バレンタインに花束もらったし、別に何もいらない」
そう言うと、十代はヨハンの肩にもたれかかった。
「ヨハンがそばにいてくれれば、それでいいよ」
「十代」
恋人の可愛い言葉に、ヨハンは十代をぎゅっと抱き寄せた。
「じゃあ、今の言葉で俺を幸せにしてくれたお礼に何かさせてくれよ。俺がしたいんだから」
十代はくすくす笑った。
「そこまで言うんだったら、食べたいケーキがあるんだけど」
「どんな?」
「ホワイトチョコが上にたくさんかかってるんだけど、名前は忘れた。えーと、グルメ?グーグル?あ、そうだ、思い出した、グルノーブル!」
「それ、フランスの都市名だぜ。あ、でも、それにちなんだ名前ならありうるな。モンブランとか山の名前だし」
「栗のケーキじゃないのか?」
ヨハンはため息をついた。
「まあいいや。店の名前、覚えてる?」
「うん!」
問題のケーキはすぐにわかった。
削ったホワイトチョコが一面にかかっているケーキで、確かにかつて冬のオリンピックが開催された都市を思わせないでもない。
「どうもありがと!」
十代はうれしそうに微笑んだ。
「これさ、ずっと食べてみたかったんだ。ホワイトチョコが雪みたいで。この辺はめったに雪が降らないから、雪ってあこがれなんだ。」
「ふーん」
スウェーデン人のヨハンにとっては雪など珍しくも何ともない。
「そりゃ、ヨハンは雪見慣れてるだろうけど」
会話に乗ってこないヨハンを十代は恨めしそうに見上げた。
「でも、いつか行ってみたいな、ヨハンの生まれた国」
小さく呟いた十代を見て、ヨハンは微笑む。
「つれていくよ、近いうちに。いやっていうほど雪見せてやるから」
「うん!」
それまでには婚約にこぎつけたいな、と、ヨハンは密かに思っていた。
「ヨハン、これからうち来る?って来てほしいんだけど。誰もいなくてさびしいし」
誰もいない?さびしい?
い、いや、妙な期待は禁物だ。十代の言葉には裏とか含みとかはまずないんだから。
「あ、うん。もちろん。家となりだし」
「よかった」
「十代、よかったって?」
安心したように微笑む十代の様子を見て、ヨハンは思わずたずねた。
「このケーキさ、ホールでしか売ってないんだ。一人じゃ食べきれないから買えなかった。一緒に食べてくれる人がいるって幸せだよな。」
「十代!」
たまらなくなってヨハンは十代を後ろから抱きしめた。
「俺がずっとそばにいる。絶対に一人にはさせないから」
「ヨハン、ありがとう。あれっ?」
十代は空を見上げた。
ひらりと空から落ちてきたもの、それは。
「雪だ!」
十代は叫んだ。
もう3月も半ばだというのに?
「名残りの雪だな。」
ヨハンが呟く。
「早く帰ろう。十代があきるまで、ずっと一緒にいてやるからさ。」
「うん」
ひらひらと名残りの雪が舞い散る中、二人は肩を並べて歩き出した。