GX一般向け小説
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つかまえる
I'll Find Him Surely
part1
DAアークティック校の寄宿舎、卒業を三日後に控えたヨハン・アンデルセンは部屋の整理に忙しかった。実家に送るものを箱詰めしていると、
「なー、ヨハン」
と、同室のカールが話しかけてきた。
「なんだ、カール」
「お前、卒業したら旅に出るってほんとか?!」
「ああ」
「えーっ!?マジかよ。ヨーロッパリーグの話も、北米デュエルカレッジへの留学も、どっちも断っちまったのか?信じらんねえ、もったいないっって思わなかったのかよ」
「うーん、まあな。でも俺には他に目的があるから」
「目的って?」
ヨハンは手を止めて考え込む。
彼の夢は精霊と人間の架け橋になることだ。けれど、精霊を見ることの出来ない人間に話したところで、わかってもらえるとは思えない。せいぜい、
「えーっ!カードの精霊?!お前そんなもの信じてるのかよ、メルヘンだなー。やっぱアレか、名前がアンデルセンだから童話の世界に生きてるとか?」
などと言われるのがオチだろう。
「いろんな国に行ってみたいんだよ。各国で限定のカードってのも多いし。」
「ふーん」
まだ納得のいかない顔をしていたが、カールはそれ以上尋ねてはこなかった。
ヨハンとて迷わなかったわけではない。ヨーロッパ各国を転戦するプロリーグに入るのも、カレッジでデュエルの勉強に打ち込むのも、どちらも魅力的だ。
だが、ヨハンの本来の目的のためには、厳しいスケジュールに縛られ、シーズン中はヨーロッパから出られないプロリーグや、やはり大学のあるうちはアメリカから出られず、論文の提出などで忙しいカレッジに行く気にはなれなかったのだ。
北米デュエルカレッジか、そういえばあそこには確か明日香が留学してるはずだ。元気にしているだろうか?
DA本校のことを考えるとどうしても「彼」のことに思い至ってしまう。ヨハンにとってかけがえのない親友、アンバー・マンモスの宝玉のような澄んだ琥珀色の瞳を持つ天才デュエリスト、遊城十代。心からデュエルを愛し、また、ヨハンと同じように精霊を見ることのできる彼なら、ヨハンの夢を心から応援してくれるだろう。
日本に行ってみようか、ふと思う。だが日本は遠い。これから誰の援助も受けず暮らしていかなければならないのだ。手持ちの貯金だけではとても足りない、少しずつ資金を貯めながら旅を続けていくとしたら、日本にたどり着くまで何年かかるだろうか。
ヨハンは枕元の写真を手に取った。そこには笑顔で十代得意のガッチャポーズをしているヨハンと十代が写っている。DAに留学していたときに、翔が撮ってくれたものだ。
(十代)
ヨハンは心の中で呟く。
(今は遠く離れていても、十代も俺もデュエリストだ。自分の信じるデュエルを続けてゆくかぎり、いつかは必ず会えるよな)
そして、写真を荷物のほうではなくバッグにしまった。
これから先、常に十代と共に戦えるように。
「再会」のちょっと前、卒業直前のヨハンです。
十代に会いに行きたくて、でも思うにまかせないジレンマに悩むヨハンから、このお話は始まります。