GX一般向け小説

□7月7日
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十代は不思議そうな顔でヨハンを見つめた。普段、十代は「何でも俺に聞くな!」とヨハンに怒られてばかりいる。それは、ヨハンがたいてい何でも知っているからなのだが。

「ヨハン、天の川知らないのか?」
「知らない」
「あれだよ」

十代は夜空を指差した。そこには、霞むような乳白色の光の帯。

「milky wayか・・・」
「あ、そうそう、英語ではそう言うんだったな」
「あれは、ギリシャ神話の女神ヘラの乳房から飛んだ乳が空にかかったものだ、って言われている、だからmilky way。」
「へえ、そう言われてみれば、何かミルクっぽいな」

「日本だと川なのか」
「うん。それでさっきの七夕の話なんだけど、あそこに明るい星があるだろ。」
「ヴェガだな」
「あれは織姫って女の人で、あっちの天の川の反対側にある星」
「アルタイルか」
「あれが、彦星って男の人。二人は働き者だったんだけど、結婚したとたん、いちゃついてばかりで仕事をサボるようになってしまったから、神様が怒って二人を天の川の両岸に分けてしまったんだ。」

「ずいぶん気の毒な話だな」
「天の川は流れが速くて船では渡れない。でも、さすがに気の毒に思った神様が、一年に一度、7月7日だけ天の川に橋を架けてくれて、二人は会うことが出来る、って話があるんだ。日本人なら誰でも知ってるぜ」
「だろうな、十代が知ってるんだから」
「何だよ、その言い方」
「あはは、冗談、冗談。でもなかなかロマンチックだな。そうか、で、今夜がその7月7日ってわけか」

「そう。この日はさ、織姫と彦星が願いをかなえてくれるんだぜ、幸せのおすそ分けにさ」
「そうか、それいいな。俺も願い事しようかな」

そう言うとヨハンは瞳を閉じた。
何を願っているのだろうか、十代はヨハンの閉じられた瞳を見つめた。睫毛、長くてきれいだなあ、と思いながら。

俺だったら何を願うだろう。子供のころは、短冊にいろいろな願い事を書いて笹につるした。でも、今なら、願い事はたった一つでいい。

ヨハンと、ずっと一緒にいたい。

だが、それは到底叶うはずのない願いだった。

「なあ、十代」

出し抜けにヨハンが目を開けていった。まともに目が合い、十代はどきっとする。

「俺、ちょっと織姫と彦星がうらやましいぜ」
「何で」
「年に一度でも、会うことができるからさ」
「ヨハン」

思わず胸をつかれた。
もしかして、いや、多分ヨハンも同じ願いを持っていた。そして、叶わないことを知っていた。
そう、たとえ年に一度でもいいから、会いたい。

その思いは、二人とも同じだった。

「ヨハン」
「ん?」
「俺、お前に会えてよかった」
「ああ、俺もそう思うぜ、心から」

たとえ、二度と会えなくなったとしても、一生親友でいられるよな、俺たち。
きっと・・・。


                        END






久しぶりの3期ネタです。冒頭のデュエルシーンはなくてもいいんですが、どうしてもデュエルがかきたかったんです。
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