東方異聞譚
□東方幻郷旅
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・紅魔館 中庭
赤い紅い大きなお屋敷。そこの中庭は普段は朝早くに門番が訪れて花の手入れをした後はあまり人が立ち寄らないこの場所なのだが、まさにその中心、七色の花々に周りを囲まれたそこには人間が二人、倒れていた。
「ふぅ…たまには外に出てみるって言うのも良いかもしれないわね」
さらに普段は人が立ち寄らないこの場所に珍しく現れたのは、これまた珍しく外に出てきた少女だった。
「…?………へぇ」
少女は花壇に倒れこんでいる二人に気付くとしばしの間、物珍しげに観察していた。
やがてハッと我に帰ると偶然近くにいた門番を呼んでその人間たちを連れてくるよう命じたのであった。
・白玉楼 中庭
玉石と砂利が綺麗に敷き詰められ、見事な曲線を描く庭石が置かれたこの場所にも、和とはかけ離れた衣服を身に纏う三人の人間が倒れていた。
「……えっと、この状況は一体何なんでしょうか…?」
そこに現れたのはこの庭を主から任されている半人前の庭師。
庭の手入れを終え、屋敷に戻ろうとした矢先にここには居る筈のない人間(しかも三人)が倒れているのを見てパニクっている様子。
「と、とりあえず……起こして…いやでももし悪人とかだったら…でもこのままにしておくのも…一度斬ってみる、とか…」
「考えうる可能性を取捨選択するのは良いけど、最後のだけは感心しないわね〜」
「みょんっ!?」
庭師の背後に突然現れたのはその主である少女だった。驚いた表情のまま固まった庭師を尻目に倒れている人間を見ると手に持った扇子で屋敷を示した。
「とりあえず空いている部屋にでも連れて行って頂戴な」
「し、しかしですね…」
「別に悪い人達でも問題ないでしょ?それともアナタはこのまま彼らを見殺しにでもする気かし…」
「心得ました!」
庭師の威勢のいい声に主である少女はビクッとした後、今度はキョトンとした顔をした。
そしてその間に庭師の方は自身の周りをふよふよと漂う白い物体に三人を乗せると少女に一礼して屋敷へと猛進とも呼べるような勢いで向かっていった。
「…あら〜、そこまで心配だったのかしら?」
クスクスと笑う少女だったが、自分も何気に彼らの事が心配なのだと気付くと笑みを浮かべたまま屋敷へと戻っていった。
・永遠亭 玄関
「…つまり彼は『招かれざる者』だと」
「そうなります。見たところ里の住人ではありませんし…」
竹林の奥深くにある古びた屋敷では薬師とその弟子が一人の人間を囲んで話をしていた。
話と言っても内容はそこまで悪くも無いのだが…
「あの…とりあえずこの縄を解いちゃもらえませんかねぇ…?」
「それは駄目」
「何で…って、聴くまでも無いか」
「そうね。貴方がここに何をしに来たのか。何処から来たのか。どうやって来たのか。最低でもこの三つは聞いておかないと」
「ですよねーwww」
「…師匠、こいつに弾幕撃ち込んでもいいでしょうか?」
「駄目」
薬師と弟子から嫌疑の眼差しで見つめられている青年は渋々、自分を縛っている縄をほどこうとするのを諦めた。
と、そこへ新たに小さな人影が飛び出してきた。
「おや?お師匠様、こいつ誰ですか?」
現れたのはふわふわとした兎の耳がついている女の子。薬師の事を「師匠」と呼んだ少女はその後ろに縛られている青年を見ると不思議そうに訊ねた。
「あら、頼んでいた薬草探しは終わったのかしら?」
「勿論!はいどうぞ。…で、こいつは」
「それが全く何も分からないの。だからこれから締め上げt…コホン」
『………』
「…と、とにかくここに居ても何も進みませんし一旦中に入ってじっくり話を聞く事にしましょう」
「え、ええそうね…あ、それじゃあ彼を水仙の間に連れて来て頂戴」
「…え?わたしが?」
「お願いね」
「悪戯なんかしないようにね」
そう言って薬師と弟子は屋敷の中へと入って行ってしまった。
「………」
「………」
「…兎にも角にも、行くよ」
「…へいへい」