東方異聞譚

□ようこそ幻想郷へ
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俺―――月宵 凪沙(つきよい なぎさ)は基本目覚めが悪い。そして遅い。

普通は朝8時ぐらいに起きてそこから8時半の登校時間までに急いで学校に向かう、という具合だが、どうゆう訳か今朝は早く起きることができた。

ちなみにただいま朝の6時www

「早過ぎるけどな」

そう、昨夜あんなことがあったのに今朝は早く起きることができたのだ。しかも目覚めはすこぶる快調。

「…?まぁいっか」

一瞬だけおかしいと感じたが特に気にもせず、凪沙はランニングの準備を始めた。


俺はアパートに一人暮らしだ。そこから毎日学校に通っている。ランニングはいつもの日課のようなものだ。

いつもは学校に向かうまでがランニングの代わりになっているが、今日は久しぶりに歩いて行こうかと思ったのだ。

「…よっし、行くか!」

準備が整い、勢いよくアパートを出る。
朝の冷たい空気が身を包む。

久しぶりに感じる朝の穏やかな雰囲気。凪沙はそれを心地よく感じながら走り出した。


◆◆◆

「はぁ、はぁ…」

アパートから学校の方へ行く途中にある公園まで走ってきた凪沙は入口付近で息を整えながら辺りを見回した。

同じように走っている男性。
公園の掃除をしているおばさん。
車も少し走っているようだ。

(ここら辺で帰るかな…)

そろそろ朝食の準備をして学校にいかないとマズいだろう。そう思った凪沙は来た道を戻ろうとした…のだが。

「きゃ!」

「っと!すいません!」

どうやら後ろにいた女性に気付かなかったようだ。危うくぶつかりそうになった凪沙は体を捻るとバランスを崩して倒れそうになった女性を支えた。

「大丈夫です…か?」

凪沙は左手を掴んで助け起こした女性の姿を見て驚いた。

「ええ大丈夫よ」

平然とそう言った女性は珍しい日傘を差しており、綺麗な金髪と合わせて見るとまさに“貴婦人”という言葉がピッタリの様相だった。

しかし女性に漂う雰囲気は周りの人たちと比べるとどう考えても異質だった。

「…?はじめまして」

それに気付かずいつの間にか見とれていた凪沙は、挨拶されたことに数瞬遅れて気が付くと慌てて返事を返した。

「え?ああ、はじめまして!」

「あなたの名前はなんていうの?」

「凪沙。月宵凪沙っていいます」

名前を聞かれてそう答えると、女性は何処からか出した扇子で口元を隠した。

「私は八雲 紫(やくも ゆかり)。ねぇ、あなた幻想郷に行きたい?」

(幻想郷?新手の勧誘か?)

女性―――紫が言う“幻想郷”という聞き慣れない単語に、凪沙は怪しむ様な視線を向けた。

「ところであなた、昨日の夜ビル街で乱闘していたわよねぇ。強いのね、あなた」

「ええ…あれ?なんで知っているんですか?」

いきなり話題を変えられたせいかその言葉に一瞬肯定しかけて、すぐに俺は首を傾げた。

昨日のあの場所には俺と、あの男たちしかいなかったはずだ。

「あなたのことは何でも知っているのよ」

紫はそう言うとにっこりと微笑んだ。


俺はますます怪しいと思ったが、紫さんの「幻想郷」という単語がどうしても気になってしまった。

「幻想郷って何ですか?」

「簡単に言うと、ここの世界とは結界をはさんで向こう側にある世界のことよ」

「へ〜そんな世界があったんですか」

俺は素直に驚いた。

「…あなた、今の話で驚かないの?というより疑問に思わないの?」

「何がですか?」

「……!!!」

俺がそう言うと紫さんは驚いていた。

「?そういう話は慣れていますから」

「…フフ、あなたは本当に面白いわね…あなたを連れていくことに決めたわ」

「あの〜、俺の意見は無視ですか?」

「気にしない気にしない♪…あなたもどうせ飽きていたんでしょ。この世界に」

「……」

否定は、できなかった。

「俺は…」

完全に見抜かれている…。

「じゃあいってらっしゃい♪」

俺が何か言おうとしたとき、紫さんの言葉と共に突然の浮遊感に襲われた。反射的に目を閉じる。


目を開けると・・・

「何ここ!?」

周りは宇宙空間のように真っ暗で、その奥に見える無数の目が同じようにこちらを見ていた。

そのまま、俺はどこまでも落ちていった…。
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