東方時流伝

□鬼と人・人と鬼
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…それから幾許の月日が流れただろう。

人間が鬼という存在を忘れ

唯一地上に残った鬼を知る者はただ一人

その一人さえも人ならざる者


やがて人外の存在さえも普通に存在するものとして見られるようになった頃


鬼は再び人と出会い

人は鬼を迎え

鬼は人を信じるようになった



「…あ〜っ!こら萃香!またアンタ私のお酒飲んだでしょ!」

「ん〜?いいじゃないか、減るもんじゃないし」

「減るものよ!蓄えてるお酒もそんなに多くないんだからね!」

「といいつつ私が飲んでも減る気配がないのはどうしてかな?」

「うぐっ……と、とにかく今度こそ止めなさいね!でないと次の宴会で良いお酒出してあげないんだからね!」

「はいは〜いっと」

神社の縁側で日なたでゴロゴロとしていた萃香に霊夢が怒った様子で空になった酒瓶を突き付ける。
もう何度目だろうか。自分がここに住みつくようになってからこのやり取りをしたのは。

適当に返事をすると霊夢は訝しげな視線を向けたがすぐにブツブツ言いながら境内へと向かった。
またいつものようにサボりながら掃除でもするのだろう。

「……見ているかい。私はこの通り元気にしているよ」

誰も居なくなった空間で一人呟く。


夢を、見ていた

大分昔の懐かしい、寂しい夢を


「確かにお前らの言う通り人間は

嘘つきで

傲慢で

強欲で

ちっぽけな存在かもしれない」

「でもね…人間はただそれだけじゃあないんだよ」

天に浮かぶ陽を見つめる。
眩しい。

「人間は

欲深く

罪深く

赦されないかもしれない」

「けど、そうじゃない奴もいるんだよ」

一口、瓢箪を口に含み喉を鳴らした。

「人間なんて信じる価値がない。あいつはそう言ってたね」

「でも…『人間』と一括りにするには違うのかもしれないよ?」

「ま、結局何が言いたいのかと言うと…」




















「人間も、そう捨てたものじゃないってことか?」

「うわっ!?何時の間に居たの勇儀!」

「つい今しがたさ。アンタの声が聞こえたから来てみれば…ねぇ?」

「…私にもそう言う時があるんだよ」

「アッハハッ!まぁそう拗ねるな!で?さっきの最後は何だったんだい?」

「む〜……秘密」

「おいおい、私達の間に隠し事は無しだろう」

「恥ずかし過ぎて言えないだけさ。大事な言葉は胸の内にでもしまっておくさ」
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