キリリク小説

□彼岸帰航・花映(ハナウツリ)
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紫の花弁が舞い散り、この世のものとは思えないような幻想的な景色の中、透明な翅を持つ七色の蝶は飛び廻る。


やがて飛び疲れたのか蝶はその羽を休める為、紫の花が咲く桜の木にその身をゆだねた。

「ふわあぁぁ〜……」

木の下には同じく背中を預け、まるで止まった蝶を見るかのように上を向く一人の青年。
大きな欠伸をした青年は上に向けていた視線を正面に戻すとこちらへと歩いてくる人影を見つけた。

それを見た瞬間に青年は笑顔になり、徐々に大きくなってくる人影に自然と手を振っていた。

「お〜い、こっちこっち〜!」

青年――待宵 零(マチヨイ レイ)が手を振ると、早足になったのか人影が近寄ってくるペースが速くなる。
やがてその顔を確認できるまで距離が縮まると













「お疲れ様、こま……ち?」

「残念ですが私です、零」

小町だと思っていた零の表情が一気に引き締まる。
その目の前には険しい顔をした、閻魔大王こと四季 映姫が仁王立ちしていた。





「いや〜ごめんごめん!最後のお客さんが予定より遅くなってね〜…って、これは一体どうなってるんですか映姫様?」

「ようやく来ましたか小町…ですが今回はきちんと仕事をしてきたようなので遅れてきた事に関しては不問としましょう」

「こ、小町…助かった…」

鎌を担ぎながら急ぎ足で駆けてきた小町は木の下の異様な光景に不思議そうな表情を浮かべた。

正座してうなだれている零と、ペタンと座りこみながら厳しい表情をしている映姫。
傍から見れば零がお説教を受けているように見えるのだが、普段は立って説教をする筈の映姫が座っているのは少々違和感があった。
気になった小町が映姫に尋ねると、彼女は持っていた杓で零を指す。

「小町、今から彼と戦いなさい」

「へ?あ、はい……はいっ!?」

「やっぱりそう言う意味だったのか…」

映姫の言葉に小町は驚き、零は諦めを顔に浮かべた。
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