キリリク小説

□彼岸帰航
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川岸に咲く彼岸花。辺りを漂う霊魂たち。霧に覆われた河。
そう、ここはあの世とこの世の境界(ハザマ)。死んだ人間が渡る三途の川である。

「ふわ〜…今日も忙しいねぇ」

そんな河岸に一艘の船が泊っていた。
やや古びた木造りで、後ろには漕ぐための櫓が置かれている。

その船の中で欠伸をしながらそんなことを言うのはこの三途の川で船頭をしている死神。

「……本当に忙しそうですね」

「ん?……え〜と、何か御用でしたでしょうか映姫、様?」

「ッ〜〜!!!また仕事をさぼっていましたね小町っ!」

「きゃんっ!すいませんでした〜!」

容赦なく飛んでくる弾幕を必死に避ける小町であった。



翌日

「…とまぁ、昨日そんなことがあってさ」

「………」

「いや〜さすが閻魔様の弾幕というか、まともにやりあったら命がいくつあっても足りないからね。毎回必死で逃げてるんだ」

「………」

「何?『自分も一度やってみたい』だって?ははっ、冗談にも程があるよ。第一これからアンタはその閻魔さまに裁かれに行くんじゃないか。やりあうことはできなくても姿を見る事は出来るだろう。しっかり目に焼き付けておくといいよ」

「………」

小町は昨日寝ていた船の上で櫓を漕いでいた。そしてその船先にはふよふよと、まるで船に乗っているかのように漂う幾つかの霊魂。
いや、ようではなく本当に乗っているのだ。事実、霊魂たちは座っているかのようにその場をじっと動かないでいた。

「おっと、そういえばまだ船賃を貰ってなかったね。さぁさ、皆出してくれ」

「………」

小町がそう言うと霊魂からジャラジャラと金貨や紙幣が零れ落ちる。
それは霊魂によって量に違いがあり、たくさん出てくるものもいれば子供の小遣いほどにしか出て来ないものもいた。

「ほうほう、お前さんはかなり他の奴から慕われていたようだね。逆に…アンタは結構嫌われてたみたいだよ。え?『何でそんなの分かるんだ』って?そりゃ当然さ。だってここの船賃は【生前の行い】によって変わるからさ。良い事をしていたり周りの奴から好かれていたら高額に、嫌われたり恨まれるような事ばかりしていたら一気に少なくなるんだよ」

笑いながらそう説明する小町。

「ギリギリ…かな。ちょっと少ないからここで降ろす事になるかと思ったよ」

「………」

「ははっ、そんなにビビらなくても大丈夫さ。額は足りてるからそういうことはしないよ。ま、問題は『あっち』についてからだろうけどね…」

苦笑いを浮かべながら船の先をちらりと見た小町。
その視線の先にはあの世と呼ばれる彼岸の光景が広がっていた。

「さて、そろそろあっち側に着くから準備しな。ほんとの天国か地獄を選ぶことになるからしっかりして行った方がいいよ」

「………」

岸に船を着けると、乗っていた霊魂たちは導かれるように彼岸の先にある光の方へと向かって行った。
小町は全員が光の中へ入っていったのを見届けると再び船を此岸へと向けて漕ぎだした。
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