キリリク小説

□君に届け、心の想い
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「ふあぁぁ〜」
竹林の奥地、普通なら誰も近づかない…いや、近づけないと言った方が正しいだろうか。
妖術によって、妖怪の類やらが入ってこれないようにした開けた場所で不老不死の少女―――藤原 妹紅は目を覚ました。
大きく伸びをするとまだ眠そうに目をこすりながら辺りを見回す。
そして空を見上げると、
「今は…ちょうど昼時か。慧音の所に行ってご飯でも食べようかな?」
ぼんやりとした目のままそう呟くと、掛けていた毛布を取り払って気だるそうに飛び上がった。
(昨日も夜中まで輝夜とやり合ってたから眠い…)
意識が覚醒しないまま、妹紅は襲ってくる眠気と戦いながら里に向かった。


――――――――――
「着いたか…」
里に到着した妹紅は、行き交う人々とすれ違いながら慧音の居る寺子屋に進んでいった。

補足だが、慧音が先生をしている寺子屋はそのまま慧音自身の住んでいる家と繋がっており、裏に回るともうひとつの入口がある。妹紅は基本、こちらの入口を通っている。

「お〜い、慧音〜居るか〜?」
そんなことはさておき、寺子屋の正面まで来た妹紅は、迷うことなく裏手に回ると未だに眠たそうにしながらガラリと引き戸を開けた。





妹紅の目に飛び込んできたのは、仰向けに倒れている慧音とそれに覆いかぶさるようにして四つん這いの体勢になっている凪沙。
それを見て妹紅は眠気が吹き飛び、同時に頭と体の動きがストップした。
それは向こうも同じことで、二人は妹紅の方を向いたまま固まっていた。
「お…お前ら…!」
「よ…よう」
「も、妹紅!違うんだ!これは…!」
時間が動き出すと同時に話し出す三人だったが、
「昼間っから何やってんだお前らは〜!!!」
妹紅の絶叫によって全ての音がかき消されたという。

▼以下回想▼
話は数分前にさかのぼる…。

「済まないな、手伝ってもらって」

「いいさ。どうせ授業が早く終わって暇だったんだし、蓮の奴も白玉楼で妖夢と留守番してるしさ。昼飯の準備ぐらいどうってことないって」

「今日は妹紅が来るから少し多めに作ったんだが、どうにも作りすぎたみたいでな…どうだ?お前も食べていくか?」

「いいの!?」

「ああ、もちろんだ」


「と、いうわけでさっきの状況になってしまったんだが…」
「どこをどうやったらあんな場面になる!」
何とか妹紅を落ち着かせてから経緯を話した慧音だったが、妹紅は再び顔を真っ赤にさせて憤慨した。
ちなみに、凪沙はあのあと妹紅によってふるもっこ…もといフルボッコにされ、今は畳の上にのされている。
「だからその後、私が机に料理を置こうとしたらうっかり足を滑らせてしまって、あいつも巻き込んでしまったんだ」
慧音の言うとおり、さっきまで二人が倒れていた場所には数十分前まで料理であった悲しき残骸が散らばっていた。
「だからってあんな…その…」
怒っていたはずの妹紅だったが、さっきの状況を思い出したのか徐々にその声は小さくなっていく。
「まぁ誤解は解けたようだし昼ご飯にするか。ほら、妹紅も座れ」
慧音は苦笑しながら、真っ赤な顔をしている妹紅にそう促すと落としてしまった料理を片づけにいった。
「うん……あ!おい、起きろよ凪沙」
「う…うぅん?」
慧音の言う通り座ろうとした妹紅だったが、自分が気絶させた人物がまだそのままだったことに気付くと凪沙の横に膝をついて頬を指先で突ついて起こそうとした。
「起きろ。慧音が昼飯にするって」
「…妹紅?」
「ん?なん……」

だが、うっすらと目を開けた凪沙は自分を起こした人物が妹紅だと知ると、いきなり背中に手を回して己の胸の中へと引き倒した。
「悪かった…ごめんな」
「…っ!」
静かにそう呟く凪沙に、妹紅は耳まで朱に染めると、コクンと頷いた。
「…お前ら…人の家で何してるんだ?」
低い声でそう言われ、慌てて飛び退いた二人を見て、慧音はくすくすと笑った。


食後、
凪沙は帰ろうとした妹紅を引き留めた。
「何だ?あの事ならもう怒って無いぞ?」
「いや、そうじゃなくて…」
何か言いづらそうにしている凪沙だったが、ポケットから何かを取り出すと妹紅に手渡した。
「えっと、お詫びってわけでもあるんだけど、外の世界から持ってきた物が有ってさ。その…妹紅にあげようかと思って…」
「これは…?」
手渡された『それ』は丸い石だった。透き通るように透明で、中を覗き込むと反対側に居る凪沙の顔が映った。
「クリスタル…水晶っていうんだ。綺麗だろ?」
「これを、私に?」
「…大事にしろよ?じゃ!」
妹紅が聞くと、凪沙は笑顔でそう言って飛び去って行った。
「…ありがとう」
妹紅は小さくそう言うと、水晶をポケットにしまい竹林の方へ歩き出した。


(まったく…俺としたことがあんなことでテンパっちまうとは…)
白玉楼への帰り道、昼間の妹紅と同じくらい顔を真っ赤にした青年が飛んでいたという。
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