東方時流伝
□夏始めの春終わり
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神社境内。季節も春から夏へと変わり始め、その暖気も徐々に熱気に移り変わっていた。
「あつい………」
縁側に腰掛けていた霊夢はだるそうにそう呟くと雲1つ無い真っ青な空を見上げた。
「『あつい』と何度も言うから暑くなるんですよ」
「じゃあ一度も言ってない早苗は暑くないのね」
苦笑しながら「そんなわけないじゃないですか」と言って、お盆に冷えたグラスを載せて来た早苗はそのまま霊夢の隣に座った。
「あら、気が利くわね」
「『どうせお茶でもたかりに来たんだろう』と神奈子様がおっしゃっていたので」
「まったく、どこぞの魔女と一緒にしないでよね」
「じゃあお茶を飲みに来たわけではないのですね」
「いや?私は“お茶を飲むついでに話に来た”のよ」
そう言って霊夢は傍らに置かれたお盆の上から冷えた麦茶を取ると一気に飲み干した。
「やっぱり暑いときは冷たい麦茶が一番よね♪」
「ふふふ、そうですね♪」
「そういえばどうしてわざわざウチ(守矢神社)に来たんですか?」
「……無意識で」
呼んだ?
『呼んでない(ません)』
「というのは冗談で、本当の事を言えば避暑に来たつもりなんだけど」
「よけい暑くなったと」
「迂闊だったわ…アンタの神社だったら風が吹いてて涼しいかと思ってたのに」
「いくら風祝でもそんなことに力を使いませんよ」
春告精が身を潜める夏始め。山の上の神社でくつろぐ二人の巫女はこれから厳しくなる太陽の日差しに目を細めながら冷たい麦茶を口にした。