東方時流伝

□魔女達のティータイム
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魔法の森

ゆったりとしたソファに腰掛け、一人の少女が膝の上で細かい作業をしていた。
長方形のテーブルには、二人分のティーカップ。真ん中には、お皿の上にきれいに並べられたクッキーが置いてあった。
しかし片方のティーカップの中には、あるべきはずの紅茶が入っておらず、それを使うであろう人物が不在であることを示していた。

コンコン

玄関のドアをノックする音が聞こえ、少女は作業を一度中断するとふわふわとした金髪を跳ねさせながら玄関へと向かった。


少女がドアを開けると、そこには箒を担ぎ、黒い魔女のような服に白のエプロンをつけたもう一人の少女が立っていた。
「は〜い…」
「ようアリス!約束通り来たぞ」
アリスと呼ばれたこの家の主は、一度深いため息をつくと、魔女服の少女に向かって言った。
「遅いわよ魔理沙。約束した時間からもう半刻も経ってるのよ?」
「すまんすまん。ちょっと良いキノコが見つかったもんでな?探しに行ってたらつい時間を忘れてしまって…」
魔理沙は苦笑いを浮かべると、アリスに遅れた理由を話した。
「まったくもう…ま、いいわ。上がって頂戴。紅茶とクッキーを用意してあるから」
その説明にアリスはそっけない態度をとると、魔理沙に入ってくるようにうながした。

「シャンハーイ」
「ありがと上海」
「おお〜!やっぱ霊夢の所とは違うな〜!」
「あの貧乏巫女と一緒にしないでよ」
上海―――アリスの人形が持ってきた紅茶と、テーブルに置いてあったクッキーを見て魔理沙は感嘆の声をあげた。
「でもアリスの淹れた紅茶が一番美味いと思うぜ?」
「…褒めてもこれ以上は出せないわよ!」
魔理沙の褒め言葉に、顔を赤らめたアリスは顔を背けると照れたように言った。


「…で?今日私を呼んだ理由はなんなんだ?」
魔理沙がそう尋ねると、アリスは懐から一枚の紙束を出した。
「この新聞見た?」
「ああ、あの天狗の奴か。今度は何を…あれ?これ二週間前の新聞だぜ?」
アリスが手に持っていたのは新聞―――文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)である。
しかしその記事は、二週間ほど前に起こった里の異変が書いてある新聞だった。
「ここに書いてある凪沙って人間の事なんだけど…」
「あ〜、すまんが私は何も知らないぜ?」
「違うわよ。ちょっと会ってみたいと思わない?」
アリスの言葉に「え!?」と驚いた魔理沙はアリスの額に自分の掌をかざした。
「熱は…無さそうだな」
「ちょ、風邪なんかひいてないってば!」
そう言いながらもアリスは魔理沙の手をどけようとはしなかった。
(ああ…魔理沙の手…冷たくて気持ちいい…)

「それで、何で会ってみたいと思うんだ?」
「え!?え〜と…こいつの荷物を持ってるから」
「…は?」
魔理沙の問いかけに、若干言いにくそうにしていたアリスは、消え入りそうな声でそう言った。
「…はっ!ちょっと待て!なんで会ってもいない奴の荷物なんか持ってるんだ!?」
その言葉に数秒間思考が停止していた魔理沙は、我に返ると同時にアリスに詰め寄った。
それに対してアリスは、
「森の中で拾ったからよ!いつものように散歩していたら頭の上から落ちてきたの!」
「妖精の仕業じゃないのか?」
「最初はそう思ったわよ。『また何か悪戯してきたんじゃないか』って。でもその荷物は…見てみればわかるわよ」
そう言うと、アリスはある部屋の扉に手をかけて魔理沙に手招きをした。
魔理沙が言われるがままついていくと、アリスはギギィと重い音を立てながら開く扉を開けた。
そこには、
「…なぁアリス。本当にこれが落ちてきたのか?」
「ええそうよ。ここまで運ぶのも大変だったんだからね」
 

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