東方時流伝

□とある一日
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「幽々子〜居る〜?」
「うわっ!っと、なんだ紫さんか。」
凪沙が庭掃除をしていると、突然後ろから話しかけられて驚いてしまった。
あわてて振り返ると、そこにはスキマから紫が出てきたところだった。
「なんだとは何よ。失礼ね。」
「すいません。いきなりだったから、つい。」
「まぁいいわよ。それで、幽々子はいる?」
「幽々子さんならまだ寝ていますよ。」
凪沙が幽々子の寝室を指差した。
「そう。じゃあいいわ。」
「え、いいんですか?」
あっさりとそう言う紫に、問うように返す凪沙。
「別に用があって来たわけじゃないからね。」
そう言って紫はフフフと笑った。
「・・・凪沙、どう?ここには慣れたかしら?」
「え?」
紫に聞かれ、考えるように箒に顎を置く凪沙。
「そうですねぇ・・・たぶん慣れました。」
「なによたぶんって。」
凪沙の答えに疑問を口にする紫。それに対し凪沙は、スッと空を見上げると、
「ここだと毎日がのんびりしているんですけど、ときどき想像もつかないような事が起こるんで。」
「あっちじゃ異変とかはおこらないからね。」
「ええ。ただ、のんびりっていうのも、外の世界じゃできなかったから。」
そう言うとくすくすと笑う凪沙。
その眼には『決意』が込められていた。
「・・・帰りたい?」
尋ねる紫に、
「・・・本音を言えば帰りたいです。だけど俺はあっちじゃ『いらない』から。」
自嘲するように言う凪沙。そして紫の方へ視線を向きなおすと、
「だから、俺を幻想郷に連れて来てくれたことには感謝します。」
そう言って頭を下げた。
「・・・私は何もしていないわ。ただあなたに『ほかの世界に生きたい』という思いが強かっただけ。」
「それでも言っておく。『ありがとう』。」
「・・・人に感謝されたのは初めてね。」
凪沙の言葉に、紫は扇子で口元を隠した。
しかし、その気配が柔らかくなっていたことを本人は知らない。
「ああ、そういえばさっき用が無いと言ったけれど。」
「?」
紫が思い出したように話し出し、
「あなたに荷物を持って来たんだった。」
ひゅうぅぅ・・・ドスン!
「きゃあ!」
何かが落ちる音がし、その一瞬後に近くで誰かの悲鳴が聞こえた。
「・・・紫さん。」
「まちがえちゃったわ。」
凪沙がジト目で紫を見たが、反省の色はないようで、
「・・・紫様、スキマを使うときはその対象の周りを巻き込まない様に、とあれほど言ったはずですが?」
さっきの悲鳴の主であろう『妖怪』がいた。
「ごめんなさいね藍。ちょっと手元が狂っちゃったわ。」



「まったく・・・。」
(知り合い・・・?)
藍と呼ばれた妖怪は、頭に変わった帽子をかぶっていて、その背中には、九本の金色の尻尾がふさふさと生えていた。
「ここは・・・白玉楼か。おや、この子は?」
「この前話した外の世界の子よ。」
「なるほど、君が・・・。どうもはじめまして。私は八雲 藍(やくも らん)。紫様の式神だ。」
藍は凪沙に小さくお辞儀をすると、紫に尋ねた。
「それで今日は、何を持ってこようとしたんですか?」
「その荷物よ。」
紫が指差した先には、
「俺のバック!」
やや色あせた凪沙のバックが落ちていた。
「中にあなたの服や道具なんかを入れておいたから。」
「紫さ〜ん。ホントにありがとう!」
そう言って、号泣しそうな凪沙を藍が宥める。
「おいおい、そんな泣くほどの事じゃないだろう?」
「だって、幽々子さんが『着るもの無いんでしょ?だったら白装束でも着てもらおうかしら?』なんて言うもんだから・・・。」
「お前も大変なんだな・・・。」
藍は、まだ出会って数分しかたっていないこの青年と何か似たようなものがある、と思った。
「さて、それじゃ用も済んだし、暇つぶしにもなったし私は帰るとするわ。行くわよ藍。」
「はい。では、またな凪沙。」
そういうと、紫と藍はスキマの中へと行ってしまった。
凪沙は、
「えーと、上着に下着、靴も入ってるし・・・え?」
バックの中身を確認すると、抜けた声を出した。
「なんでレシピと食材が一緒に入ってるんだ・・・。」
衣類の中には調味料やカレーのルーなどが入っており、ほかにも凪沙が書き起こしたレシピ表までもが入っていた。
そして一緒に一枚の紙。内容を確認した凪沙は、顔を凍りつかせた。
「・・・マジで?」
そこには、
『ここに書いてある料理で幽々子を満足させられるかしら?幽々子は料理にはうるさいからね。もしおいしくない料理でも出したら・・・・・食べられるわよ?」
そう書いてあった。
 

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