東方時流伝

□白玉楼月見宴会
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深夜 白玉楼
庭園

妖夢と勝負した夜、凪沙はなかなか寝付けずに、縁側に腰掛けて月を見ていた。
「あら、まだ起きていたの?」
「幽々子さん・・・。」
ふと声のした方を振り向くと、そこには幽々子が立っていた。
「なかなか寝付けなくって。」
「奇遇ね。私もよ。」
幽々子はそう言ってクスクスと笑うと、凪沙の隣に腰かけた。
「幽々子さんもそんなことがあるんですね。」
凪沙が不思議そうに聞いた。
「そんなにあるものではないけれど、ね。」
そう答えると二人ともしばらくの間無言になり、ただ月だけをを眺めていた。
「凪沙。」
「何ですか?」
「あなた、あの刀をどうやって見つけたの?」
幽々子はおもむろにそう聞くと、凪沙の方を向いた。

「あの刀はね、蒼牙(そうが)といって、先代の庭師・・・魂魄 妖忌(こんぱく ようき)が持ってきたものなのよ。」
幽々子が少し暗い声でそう告げた。
「魂魄って・・・」
「そう。妖夢の師匠であり、おじい様でもあるわ。」
「それとあの刀に何の関係が?」
凪沙は話に関連性が無いように思い尋ねてみた。
「あれはね、妖忌が行方不明になってから誰も扱えなかった物なのよ。」
意味がよくわからない。少し混乱しながらも凪沙は聞いてみた。
「というと?」
「簡単にいえば、『持ち主を選ぶ刀』ということよ。・・・以前、妖夢に使わせようとしたけれど、だめだった。刀の柄に模様が入っているでしょう?あれが小さな結界になっていて、さわれなかったのよ。」
「へぇー。」
幽々子の説明を聞き、ようやく理解した凪沙はなんとなく違和感を感じ、それに気づいた。
「・・・じゃあ何で俺はさわれるんだ?」
「それは、あなたが特別だからよ。」


「うわ!?」
「あらあら・・・紫?入る時はちゃんと断っておいてって言ってるでしょう?」
目の前の庭の真ん中にスキマが現れ、中から紫が出てきた。
「ごめんなさいね。今度から気をつけるわ。」
そう言っているが、たいして気にかけずに幽々子の隣に座った。
「ええ、本当に。でないと凪沙の寿命が縮まってしまうわ。」
「大丈夫ですよ。もしそうだったら俺、もうとっくに死んでますから。」
凪沙は胸を張って、笑いながら答えた。
「・・・ふふふ。本当に面白い子を連れてきたわね。」
「そうでしょう?」
幽々子と紫は互いに笑い合った。
と、凪沙が紫に、
「そういえば、俺が特別ってどういうことだ?」
と聞いた。
それに紫は一瞬首をかしげた後、少し笑みを浮かべて、
「それはあなたが一番知っているんじゃないの?」
と答えた。
「???」
凪沙は訳が分からず、記憶をたどって考えてみた。
それを見ていた紫が、
「しょうがないわねぇ。じゃあヒントをあげましょう。あなたのその技術、どこで身につけたのかしら?」
そして、凪沙はある一つの考えに行き着いた。
「・・・なるほど。そうゆうことか。」
その様子に紫は微笑むと、
「じゃあ言ってみなさい?」
と言った。
凪沙は頷くと、幽々子の方に向き直り、静かに話した。
「実は・・・俺の剣術は俺が生まれた街でやっていた道場で習ったものなんです。」
「それがどうしたの?」
幽々子は凪沙の話の内容を疑問に思い首を傾げた。
「そこでみんなに教えていた師範がいるんですけど、その人の名前が・・・『ヨーキ』って言ったはずなんです。」



夜風が吹き、緑色になった桜の木々がざわめいた。
「・・・本当なの?」
幽々子は軽く目を見開き、凪沙に聞いた。
「小さい頃の記憶ですけど、俺はその師範に構えとかを個人的に習ったんで、確かなはず・・・です。」
「そうなの・・・。」
幽々子は驚いたようだったが、凪沙の方を向くと安心したように微笑んだ。
「良かったわ、あの人が無事で。なぁんだ。外の世界に行ってたのね。」
幽々子はそういうと、合点が言ったように、
「だからあれを使えたのね。」
と言った。
「でも、剣術を習ったぐらいであの刀を扱えるようになる、なんてのはさすがに無いんじゃ・・・」
凪沙がそうぼやくと、
「あら、あの刀は妖忌しか使えなかったのよね?」
「ええそうよ。」
紫が幽々子に尋ねると、凪沙を扇子で指し、
「つまり、妖忌に習っていたあなたが一番妖忌に近い、というか刀に認められる素質があった、ということね。」
「そうなのかしらね、きっと。」
「・・・なんだかなぁ。」
幽々子と紫に押し切られるように言われた凪沙は、なんだか丸めこまれたような気がした。
「そういえば紫、あなたはなんでこんな時間にここに来たの?」
「そういえばそうですね。」
凪沙と幽々子が、尋ねると、紫は手元にスキマをつくると、
「う〜ん。月見酒もいいかなと思って。」
お酒を取り出した。
「いいわねぇ。ほら凪沙、あなたも。」
「いや、俺まだ未成年ですから!」
幽々子に勧められた凪沙は、なんとか断ろうと必死に言い訳を考えた。
「そんなこと言わずに飲みなさい。大丈夫よ、そんなに強くなくても。」
「そうゆう問題じゃなくって!」


だが結局二人に言われるまま月見酒を楽しんだ凪沙は、翌日二日酔いに苦しみ、妖夢から、
「まったく・・・。あの二人はお酒にとってもお強いので、あまり付き合わない方がいいですよ?」
と言われてしまった・・・。
 

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