東方時流伝
□幻想ひな祭り
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寒々とした空気も幾分か暖かさを取り戻し、積もっていた雪も再び降り始めた雨に溶け流されていく。
そんな春へと近づく中、魔法の森の一角は少々賑やかになっていた。
「…ん。これでよしっと」
「おーい。こいつらはここでいいのか?」
「ええ。あとはこの子たちが運んでくれるわ」
声の主らが居るのは七色の魔法使いが住む洋館。
たくさんの人形達に囲まれた2人の少女は、大きな箱を部屋の中へと運んでいた。
「ふい〜疲れたんだぜ」
「まだ始めたばっかりでしょうに。ずっと家で研究ばっかりしてたから身体がなまってるのかしら?」
「む。引きこもって人形をずっと作ってた奴には言われたくないな」
お互いに嫌味を言いあい、どちらからともなく笑いだす。
そんなほのぼのとした時間を過ごしながら、少女たちは作業をてきぱきとこなしていく。
「しっかし、『ひな祭り』なんて小さい頃にやった以来だな」
2人が運んでいた箱の中には周りにいるのよりもさらにたくさんの人形が入っていた。
それらを箱から慎重に取り出してひな段の上へと1つ1つ丁寧に置いていく。
「あら、魔理沙はやったことあるの?」
上海人形が持ってきたぼんぼりを受け取りながらアリスは尋ねる。
「ああ。あの時はひな壇に並んだ人形達を見ただけでもワクワクしてた」
「ぷっ」
「なっ!?わ、笑うなよ!」
「ご、ごめんなさい…魔理沙のそんな様子を思い浮かべたら……あはははは!!」
幼い魔理沙がお雛さまを見ながら嬉しそうな表情をしている。そんな情景を想像したからなのか、アリスは腹を抱えながら大笑いしていた。
それに恥ずかしさからか顔を真っ赤にした魔理沙はそっぽを向き拗ねたような口調で続ける。
「〜〜〜っつ!べ、別にもう帰ってもいいんだぞ!!!」
「ふふっ、そ、それは困るわ。くっ、せっかくの、て、お手伝いさんなんですもの」
「だから笑うんじゃな〜い!!!」
◆◆◆
それからしばらくして、お雛さまが出来上がった。
ひな段に並んだ人形達を見て、魔理沙もアリスもぼうっとした表情を浮かべていた。
「………」
「……ねぇ魔理沙」
「…うん?」
「さっきは思いっきり笑っちゃってごめん」
「どうしたんだよいきなり」
「だって私もさっき考えてた魔理沙の様になってるんだもの。人の事を笑えないわ」
「だろ?」
嬉しそうな表情を浮かべながら魔理沙は笑った。