東方時流伝
□幻想ひな祭り
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「しっかし何で急にひな祭りしようなんて言いだしたんだ?」
「え?」
客間で紅茶を飲みながら談笑していた中、魔理沙はそんな疑問をぶつけてみた。
考えてみれば、あの人形は何処で調達したのか?今までしなかったのにどうして?
様々な疑問が浮かんでくる。
「う〜ん…ちょっとした事情があるのよ」
「事情?」
「そ。まぁある人から頼まれてね」
「???」
コンコン。
不思議と嬉しそうな表情を浮かべながら話すアリスに首を傾げる魔理沙だったが、ノックされたドアにその疑念はかき消された。
「あら誰かしら?……珍しいわね、どうぞお上がり下さいな」
「うん?アリスが敬語なんて…あぁ、アンタだったか」
玄関へと向かったアリスが連れてきた人物を見て魔理沙は可笑しそうに笑う。
「久しぶりね、白黒さん」
「厄神様が魔法の森に来るなんて本当に珍しいな。今日は出張か?」
魔理沙の前に立っていたのは普段は妖怪の山に暮らしている神様の1人、厄神である鍵山雛だった。
冗談を飛ばしてきた魔理沙に微笑を返しながら返事をする。
「そんな所よ。あなたはひな祭りの意味を御存じかしら?」
「ああ?確か女の子の成長を祈るお祭りだとかなんとか」
「そうね。じゃあ私の呼び名を覚えている?」
「え〜と…流し雛?」
「そういうこと」
「いやいや、どういうことだよ」
「ひとまずストップ。厄神様もそこに座って下さいますか?」
苦笑いを浮かべる魔理沙にのほほんとした様子で雛は佇んでいる。
その間にアリスが割って入り会話を止める。
「ええ、お邪魔するわ」
「それじゃあ追加のカップと紅茶の替えを持ってくるから続きをどうぞ」
そう言うとアリスは上海人形と共にキッチンの方へと向かってしまった。
「まったく…そう言われると喋りにくいったらありゃしないぜ」
「でも喋ってるじゃないの」
「喋らないと気まずいしな。で?さっきの意味ってのはどういう事なんだぜ?」
横に座って嬉々として続きを求める魔理沙に微笑むと、雛はゆっくりと話し始めた。
「ひな祭りはあなたの言う通り女の子の成長を祈るお祭りよ。でもね、そこで飾られるひな人形には災厄除けの守り雛としての意味が含まれているのよ。それは私の呼び名でもある流し雛と同様。いわば私の分身のようなものね。だからこうやって雛人形が飾られている場所に出向く訳よ」
「………」
「分かったかしら?」
「なんとか」
「よろしい」
頭から煙を吹きながらも魔理沙はこくりと頷く。
それに満足したのか、雛はにっこりと笑うと立ちあがる。
「ん、どうしたんだ?」
「私を見に行くのよ」
そう言うと、雛は雛人形が飾られた部屋へと向かっていく。
どうやらどこにあるか分かるらしく、迷いなく部屋へと向かっていく。
「持って来ましたよ〜…ってあら?厄神様は?」
「自分を見に行くってさ」
「???」
ソファーにもたれかかりながら魔理沙がそう言うとアリスは不思議そうな顔で首を傾げた。
それからしばらくすると雛が戻って来た。
先程まで自分がいた場所に座るとほぅと小さく息をついた。
「どうでした?」
「ええ。あの子たちも綺麗だったわ」
「それって自画自賛になってないか?」
「あれは私であって私じゃないから違うわよ」
「ややこしいぜまったく…」
紅茶を飲みながらくつろぐ雛に難しそうな顔をする魔理沙。
それを見てアリスは静かに微笑んだ。
「彼女達が今年も健康でありますように」