小説 【至高ルーチン】
□直島「地中美術館」
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咲子さんは休みをとらない。
仕事と趣味が一緒だから。
私生活と仕事が同じだから。
どこからどこまでがプライベートで、
どこからどこまでがビジネスなのかわからない。
自分でも、時々そう言っているのを、
秘書役で補佐役の俺は知っている。
アーティストって、そういうもんだと、
俺もわかっているから、
よほど体調が悪い時くらいしか俺も言わない。
休んだほうがよくないですか? だなんて。
仕事の鬼は、
年末年始、お盆、ゴールデンウィーク関係なく働く。
だから俺もこの人についていこうと思うのか。
その姿は嫌味でも何でもなく。
だって実際のところ、仕事しているけれど息抜きはしっかりしているし、
目を離せばふらふらとどこかへでかけていくし。
けれど、
咲子さんが出かけていくのはたいていが、
芸の肥やしのための外出だという事も知っている。
創作意欲を奮い起こすために。
知識と視野を広げるために。
図書館、ライブハウス、劇場、ギャラリー、美術館、博物館、小劇場、体育館、映画館、寺、神社、古書店、病院、教会、役所、停留所、船着き場、駅のホーム、空港、警察署、喫茶店、マクドナルド、高層ビル、東京タワー…。
咲子さんの巡回ルートはだいたい決まっているけれど、ジャンルは様々だ。
風俗店にふらふらと入っていこうとしたのを見た時は流石の俺も止めたけれど。
しかし、そうやって彼女の感性が研ぎ澄まされていくことを、俺は知っている。