BL小説 【鈍色の風、鋭く吹いて】

□ユグラドラシル
1ページ/3ページ

こんな夢を見た。



そのビルは、
ユグラドラシルの異名を持つ。

世界樹。

神話に出て来る、世界を支える樹木をあらわすほどの、
高くそびえたつ高層ビル。

タクシーの窓から見上げて、
僕は胸の奥がきゅんと狭くなるのを感じた。

こうなると、もうひとつのことしか考えられない。

そのビルの20階には、
きみの会社のオフィスがはいってる。
そして、きみがいる。



会いたい。




そう思ったら、もう我慢できなくなった。

僕らはお互いの気持ちを確かめ合ったけれど、
付き合うとかそういうのはなくて。

だからきみが若社長さんとして忙しいのを知っているから、
僕から連絡をとったりはしない。

そしてきみも。


それどころじゃないってことを、
僕も知っているから。


きみはきっと、片手間に社長業をやったりするような男じゃない。

寝る間を削ってでも、社員と会社を守ろうとする男だから。


僕が足枷手枷になってしまうなら、と僕は自分から連絡するのをひかえている。



会わなくなって、もう何か月経つんだろう。

ちゃんと寝てる?

ちゃんと食べてる?

ちゃんと…


僕のこと、


覚えてくれてる?




僕はきみのこと、
大好きなままだよ。

時間が経っても、
きみと離ればなれになっても、
やっぱりきみのことばっかり考えてるよ。




ここで、おろしてください。


僕はタクシーの運転者にそう告げていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ