BL小説 【鈍色の風、鋭く吹いて】

□鈍く吹く
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こんな夢を見た。





言いたい事がある。


ぼくは俯き、彼に言った。


なぁに?


いつもの間延びした調子の、きみの声に、ぼくは息苦しさを感じる。
いつからだろうか。
きっと、この胸の奥にあるものをさらけだしたいと思っていた。
けれど、それを伝えてしまえばそれでぼくたちの心地良い友人関係はくずれると思っていた。

なんで今更言う気になったか。

それは、彼がぼくから離れてしまう事が決まったから。



ぼくはしがない芸術家。
きみは、ぼくの所属する事務所の人。
そう、ただそれだけだったのだけれど。
きみは独立して、この会社を辞めるという。
ぼくが一躍有名になった作品を作った、この会社を。
まだ卵ともいえないくらい未熟だったぼくと、
新人社員のきみとの歩幅は、近かったというのに。

いまではきみは、ひとつの会社の取締役社長になろうとしている。

ぼくはどこへいく?





きみは、芸術作品のような綺麗な顔をぼくに向けて、
もう一度、なぁに、と聞いた。

俯いているぼくを、そっとのぞき込んで、
独特のイントネーションでどうしたのと聞くその優しさ。


きみは優しいから、
きっとぼくの本能に、
きっとぼくの涙に、
うんって言っちゃうんじゃないかとか、
淡い期待を胸に、
どうにでもなれという自暴自棄が混合して、
言葉になった。






好きだ。





見上げたところに、困惑したきみの顔があった。
この、凄絶までに美しい整った顔と、口角のあがった薄い唇、凛とした目と、計算されてひかれたような眉。
十何年も見続け、追い続けてきたその顔が、間違いなく困っていた。
どうしていいのか、どう受け取るべきなのか、わからないような表情。
むしろ、それはぼくを嫌悪し排除してしまおうという表情にすら見えて、
ぼくは急に怖くなって立ち上がり、
逃げ出した。


ぼくは、臆病者だ。


知っているだろう。

ぼくの側に10年以上もいたのだから。



ぼくの名前を呼ぶ、低い声が、
ぼくの背後に差し迫ったが、
ぼくは振り返らずに、
そのまま走った。




だって今振り返ったら、
もうぼくはだめだ。
暴力みたいな愛情表現しか、
もうできそうにない。




お願い。

お願いお願いお願い。

気がつくな。

この浅ましさに。
気がついてくれるな。


だってもうぼくは。


好きだ。




気がついたんだ。ずっと好きだった。ばかだって笑って良いよ。でもずっと好きだったんだ。好きだ。好きだ。好きだ。好きだ。何度叫んだって足りないんだよ。好きだ好きだ好きなんだどうすればいいかなんてぼくがいちばん聞きたいだってきみは友達で男でぼくも男できみとは大学の時からの友人で。





そんな目で見ていたんだ、俺の事。


だなんて、唾棄してくれてもいい。
もういっそ、この際。





きみが、退職するまで、あと10日。

ダッテモウボクハキミニアエナイ。
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