BL長編小説 【美しい男】

□美しい、不幸自慢。
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松永視点



* * *



あーおーげーばー、とーとしー、ってか。

卒業ソングなんぞを口ずさみながら、俺は上京するための荷造りをしていた。
事務所がすでに東京での住居を用意してくれていて、後は俺が上京するだけ。

由樹は、あいかわらずいつもとかわらへん。

俺の部屋で、何をするでもなく椅子に座ってる。



好きやって言ってくれたのはあの日だけ。
なんもかわらん、日常。

違うのは、明日俺が東京に行く、ということだけ。


「なぁ、よしくん」
「よしくん言うな」
「ええやん、俺の中ではよしくんはよしくんやん」
「…意味わからん」

あいかわらずの無表情。
でも、これは嫌がっているわけじゃない。

なんとなく、でわかる、それが俺達の長い間で培ってきた距離間。

「俺らって…付き合ってるんやんな?」
「は?」

は、って…。
なんやねん、それ。

自分で言っといて、ちょっと傷付くあたり、前となんもかわってへん。

「男同士で付き合うなんて、あり得るん?」

なに言うてんの、みたいな顔で、由樹は俺のことを見る。

あー…そういや、好きやとは言うたけど、付き合ってください、って言うのは忘れてたな!
って、そーじゃないやろ!

一人つっこみしてしもたやん。

「…あるやろ。だって、好き同士やん。俺はよしくんが好きで、よしくんも…」


俺のころ好きなんやろ?
って、言おうとして荷造りのひもをつかんでた手を休めて見上げたところに、頬を染めた由樹の顔があった。

それ、反則や。
めっちゃ、可愛いやん。

「照れてるんか、よしくん! 可愛いな〜」
「…うっさい。かわいい言うな」
「じゃあ、由樹はかっこいい!」
「意味不明や…けんいっちゃん」

すすす、と由樹に近寄って、三角座りしている由樹の手を取る。
驚いたようにしていたけれど、振払われることはなかった。

「…かわいいなぁ」

好きや。

想いが伝えられて、しかもお互いが同じ気持ちやったなんて、嘘みたいやけど、これが現実なんて嬉しすぎる。

俺は床に座り込んで、由樹は椅子の上で足を崩して、俺は由樹の足下に跪いて由樹の手を握った。

あったかい。

見上げれば、由樹の困ったような顔がある。

ねだるような顔で見上げて、言った。

「付き合って?」
「…付き合ってるんと、ちゃうのん?」
「聞いたら、ちがうって言ったん由樹やんか」
「…ま、そやけど…、わっ、手ぇひっぱんな、落ちる!」
「落ちぃや」

ひっぱって、俺の胸で受け止めて。

由樹はあっけなく、俺に覆いかぶさるようにして落ちてくる。

「痛いわ…けんいっちゃん」

ぎゅっと、その肩を抱いた。
もうすでに、心臓が暴れだしてた。
長い間の片想いが報われたのに、こんなことでいちいち動揺してたら身がもたへんな、とか思いながら。

かわいい。
かわいいなぁ。
今まで付き合ったどんな女にも、こんなふうには思ったことなかった気がする。

由樹はどんどん色気を増して、別に女みたいな顔をしているわけでもないのに。
男の色気っていうんやろか。
かっこいい。という色気も、かわいい。という色気も、なにもかもないまぜになって、色気が出てる。

俺はそれに酔って、溺れて、息をするのも忘れそう。

「…キス、してええ?」

顔を覗き込んで、言ったら、「聞くなよ」とあきれた声が返ってくる。

口付ける瞬間、背中がくすぐったくて、なのに、心臓がすぐ耳の近くで鼓動を響かせた。

頬に手をやって、後ろの髪を撫でて、重ねるだけのキス。


うそみたいや。
何度思ったことだろう。

でも、嬉しい。
これが現実やなんて。


薄く目をあければ、照れたままそれでも目を閉じてる由樹。

唇を離して、照れくさくて目をあわせられないまま、照れ隠しみたいに由樹の左目の下、そのホクロに、キスをしたる

ちゅ、と音をたてて。



「…なん、やろな。おまえとキスするんは、…恥ずかしい」



おまえも俺と同じこと思ってたんや。
由樹は、そんなことを言った。


「なぁ、由樹。付き合って?」



もう一度、告白した。
恥ずかしいけど、あの時みたいな幸福と絶望が入り交じったみたいな気持ちはなかった。

ただ、澄み渡った空みたいな、気持ちだけが俺を支配してる。


「…ええで」


このまま、時間が止まれば、ええのになぁ。





明日、俺は、おまえと離れるから。









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