BL短編小説 【ラストダンス 2】

□モーションプレイ
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あ、やっぱりこういうとこは、バンドマンなんだな。

日曜の昼下がり。

珍しく、オフの重なった俺達。

ただ、映像をつくり、映像を見るためだけに精査されただだっぴろい部屋で、フローリングにその男は寝転んでいた。
長い足を、投げ出して。
ラフな黒いシャツは、胸元が開いて素肌があらわになってる。

銀色のドッグタグが、窓から差し込んだ光を反射させて、眩しい。

仕事が終わったら呼んでや。

男はそう言っていたけれど、俺はすっかり映像編集に没頭しちゃってて。

そういや、ユタカくんが来たのって、午前だっけ…。

そんとき、俺はもう映像編集に没頭してて、生返事で返してた。
…気がする。

記憶がねぇよ!



天才朝比奈秋空様。
仕事に没頭すると周囲が見えなくなるんです。
っていうか、基本的に仕事人間だから。俺。

チャラチャラしてるけど、やることやるんだからネ!



…で、この女王様を、どうしましょうかね。



ユタカくんは、俺が仕事をして、相手をしないことに腹をたてたりしない。
そういうとこ、オトナで。
聞き分けはとてもいい。


伸びすぎてうっとうしい髪を、もう一度縛りなおす。
特に、横の髪がうっとうしいから、横の髪だけをつまんで後ろで縛って…。

さて、どうしたもんか。



黒く塗られた彼の爪を、じっと見た。



こういうとこ、やっぱり、バンドマン。
てゆうか、ミュージシャン。

それなりに、オシャレさんだし。

身に着けてるものもさりげなくブランドモノばっか。
なのに嫌味がなくて。

クールキャラっぽいよネ。


午前中から訪ねてくるなんて、一体何の用事だったんだろ?


黒く塗りつぶされた爪をそっととるように、彼の右手をつかみあげて、じっと見つめる。


うわー、すごい綺麗に切ってるんだネー。

この指が、ベースの弦を爪弾くとき。
重くて低い音を響かせるとき、俺はどうしようもない欲にかられた。

いつもいつも。

冷静にリズムを刻むきみに、欲情する。

ストラップを長めにとって、前かがみでベースを奏でるきみは、いつも睨むように前方を見てる。

少し長い髪が、その鋭い光を見え隠れさせて、それがまた、なんていうか…、お兄さん、こまっちゃう。

そんなカオされたら。


時々、笑うように目を細めるのに、その瞳の奥は笑っていなくて。

挑発するように、口角だけがあがってて。


ライブのときだけじゃなくて、PVの撮影するときも、そんなカオするもんだから。
こまっちゃう。



「…ん、…仕事、終わったん?」

掠れた声がして、ユタカくんは身じろいだ。

「うん…、ごめんネー…」
「許さへん」

言いながらも、どこか笑ってるきみに、俺は苦笑した。


俺達は、付き合っているわけでもない。


このあいだは、グラビアアイドルのリリカとの熱愛旅行を報じられてたユタカくん。
そして、女優に手を出した、俺。

駆け引きにすらなっていないような手段で、互いの気を引いて。
俺達、なんかばかみたい。

そんで、互いに欲しくなれば、呼び出して体重ねて。

性欲処理なら間に合ってるのに。

「…何の、用だったのー?」

ごめん、それすら聞かずに仕事してて。

「んー? なんやっけ?」

がくり。
お兄さん、ちょっとヒヤヒヤしてたのに、正直。

女王様ほったらかして、仕事してただなんて気づかれたら、またむちゃくちゃに抱かれて、何回もイカされて、イヤだって言っても聞いてくれなくて。
そういう報復を、予感してたのに。

…ごめん、心のどこかで「残念」て思ってしまったあたり、やっぱり俺、みんなが言うとおり変態かも。

「あー…そうそう、俺、明日からツアーやねん」
「あ…そう」
「なんや、寂しがってくれへんの?」

ようやく、夢の世界から帰ってきたように、ユタカくんはフローリングに転がって、俺の手をつかんだままにやりと笑った。

そんな、こと。
言えるかい!

こちとら留守番ができないうさぎちゃんじゃねぇっつーの!
こちとら、もう30代も後半だっつーの!

「ネー、ユタカくん、俺らの関係って…?」
「あ? セフレやん」

がーん。
やっぱ、そうなるんだ。

好きだって互いに意識しあって、一応告白までしたのに!
セフレかい!

「あのー…ネ? ユタカくん?」

俺のこと、好きだよね?
あれ以来、その言葉、聞いていませんけど。

「なに? 抱いて欲しいん? 昼間っから…さかんやなぁ、秋空さん」
「そこまで変態じゃねぇよ」
「あ、そ」

わかってんの?
俺の気持ち。

ちっとも、嫉妬すらしてくれない。
あーあー、もういいですけどネ!
俺、やきもち焼いて、だなんてそんなうぜぇこと言うキャラじゃねぇし!
ふーん、だ。

「なに唇とがらしてんの?」

くつくつ笑って、ユタカくんは起き上がる。

「かーわい、秋空さん」
「…かわいくねぇよ。こちとら何歳だと思ってんの?」
「あさひなあきら、3さいでしゅ」
「そう、3さいなんでしゅ、ってノルと思ったか! ばーか」
「ノッたん、そっちやん。ばーか、って、あんた、小学生か」
「小学生でけっこう! …っ、て! うわっ!」

手を力強くひかれて、勢いあまってユタカくんにつっこむようにして、俺はフローリングに転がった。

「イタタ…なぁに、すんのー?」

顔をあげて、ちょっと息が止まった。

…悪魔がいる。

美しい、悪魔。

「ごめん、ヤりたくなった」
「っ、…! いーやー!! 昼間じゃん!」
「うっさい、関係あるか」
「っく、んぁ、ふっ…! あ、イタっ、噛まないでよ…っ!」





…謝ってくれたから、まだヨシとしよう。







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