BL短編小説 【ラストダンス 2】

□イコライザー
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男は待ち合わせ場所に、スーツ姿でやってきた。

「ぶはっ! スーツなのにチャラってるとか、まじでどんだけ!」

思わず声をあげてしまったのは、本当にそう思ったから。

「…ひーどいネ、ジョーくん」

仕方ないじゃん、仕事してたんだから、とかなんとかぶつくさ言って、男はさっそく煙草に火をつけて、レッドアイを頼んだ。

夜更けのバーは、会員制。
芸能人やらスポーツマン、政治家の御用達。

俺だってほら、ゲーノージンやから。
リブラのベーシストっていうよか、もはや「歩くスキャンダル」みたいになってるけど、この優等生面のおかげで、変な叩かれ方もしてない。
ちょっとプレイボーイ、そんな感じでちょうどいい。
だって、女の子と遊ぶのが趣味なんじゃなくて、この男を翻弄させたいだけだから。

平日だからか、意外にがらんとしたバーは、静かに音楽がかかってて、バーテンダーの振るシェイカーの音がやけに響いてた。

「てゆうか、髪、染めたんですね。やから、チャラってるみたいに見えたんやな」
「あ、気づいてくれた? さーすが、ジョーくんだネ。そういうとこ、好き」

あっさり「好き」なんて言うて。
あとで後悔しても知らんからな。

ダークグレイのスーツだって、この男が着ればホストクラブのオーナーに見間違えられることは相違ない。

同じ兄弟でも、朝比奈真白社長のダークスーツは、もっとこう大人の色気みたいなんが出るのに。
なんでこの人、こんなに若いオーラ全開なんやろな。

っていうか、「勢い」が全開。

裏返したら、落ち着きがないんやけど…。
あ、ほら、おしぼり落としてるやん。なにやってんねん。
ほんまに年上か?

「気づいたら、こういうとこで会うようなステイタスになっちゃってんだねぇ。なんていうか、俺もジョーくんも」
「おかげさんで」
「で、何の御用? ジョーくんから誘ってくれるなんて、嬉しいなあ」

そういうことを言うのに、本気では言ってくれないなんて、てんで性悪やで、あんた。

「いや、別に用はなかったんですけどね。ツアーもひと段落したし、久々に東京に戻ってきたら、秋空さんのカオが見たなって」

わざと、ひじついて、顔のっけて、上目遣いで微笑んで言う。

わかってる?
この意味。

そろそろあんた、オチてもええんちゃうのん?

「あのネー、…ジョーくん…」
「なに?」
「…それ、わかっててやってんでしょ?」
「ご名答」
「そもそもこないだの電話だって、ナニあれ、言えよだなんて、俺はきみに言うことなんてナニもないっつーのヨ」
「ほんまに?」
「ほんまに」
「関西弁使って言われても信憑性ないしな。なにツられてんです?」
「…ちょっと、トイレー」

くそ。
逃げやがった。

その年で、こんなに年下の男にハマるなんて思ってなかった?
それが悔しくて、黙ってんの? あんた。


席を離れた秋空さんのグラスに、俺はこっそりとクスリを入れた。
大丈夫。
合法やから、これ。

あんたはガマンできても、俺はもうガマンなんてできひんねん。
何年待ったと思ってるん?

…やることやってから、その唇で言わせたるわ。秋空さん。





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