BL短編小説 【ラストダンス 2】
□優しすぎると死にたくなるんだ。
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会いたいという言葉をのみこむんだ。
眩しいくらいの空の下に立てば、
自分の存在がやけにちっぽけに感じて、
死にたくなるから。
会いたいという言葉を、
ぼくは、
のみこむんだ。
優しい子守唄はもう、
必要な【自分】じゃない。
* * *
年があけて、すでに2月も中盤。
ぼくたち「ハイネス」は日本を縦断中。
「…やっと、仙台か…」
メンバーを乗せたキャラバンは高速をひた走る。
仙台まで5キロ、という緑の看板を見つけた恩田さんがふと呟いていた。
少しずつではあるが、記憶を取り戻している弥生はもうつれていない。
「仙台、東京、北海道、で、次は、パリ…」
もうひとつのバンド「Akasha」でベースをしている鬼塚卓志にも、このツアースケジュールは驚愕以外のなにものでもないらしく。
「…モンスターバンドになっちまって、まぁ」
と、少し開けた窓に向けて煙草の煙を吐き出している。
もう、かれこれ1ヵ月半、梅崎さんには会っていない。
ずっと移動しているわけじゃなく、ライブの合間に東京に戻り、新曲の音源づくりや雑誌のインタビュー、PV撮影、その他もろもろの仕事をこなしているが、
時間的には余裕がまったくないから、
芝居の稽古中でもある梅崎さんと時間をそろえるのは無理に近かった。
おまけに、
電話もメールもあまりしない人種なもんで。
生活サイクルもまるで違うし。
正直言って。
不安になる。
あんたは、口ではすきだって言って、
体だって素直なもんだから求め合うけれど、
そこまでしてぼくを求めているわけじゃないのかな、とか。
…ときどき暗くなる、ぼくの悪い癖。
わかってる。
不安になるくらいなら、
携帯電話1本で、
梅崎さんがいま何をしているのか、行動も気持ちも確かめることなんて簡単なのに。
うぜぇと言われたらおしまいだなんてあり得ない可能性を想像しては手が動かなくなるんだ。
付き合う前から、こうなることは想像がついていたのに。
だから、自分の気持ちに気がついた後も、流されるままにはなりたくなかったんだ。
好きだとか愛してるとか一緒にいたいだとかでいっぱいになって、
仕事も手につかなくなる自分は安易に想像できたから。
だから、梅崎さんにもそれは言った。
あの人も、仕事第一優先の人だから。
邪魔をしてはいけない。
起動に乗り出した、「ハイネス」というプロジェクトの弊害にもなってはならない。
この恋が終わるとしたら、
それはぼくの「わがまま」のせいで終わってしまうだろう。
…以外にオトメなぼく。
あの男はいま、何を考えてるんだろう。
ふと、携帯電話の電子音がなって、
ぼくのかと思いきや恩田さんの電話で。
「あ、ちょっとごめん」
と、ぼくたちに目配せしてから恩田さんは電話を取った。
「もしもし? どうした?」
表情が急に柔らかくなる。
きっと、相手は弥生だ。
「宅急便? ああ、受け取っといて。おまえのサインでいいから。え? 受け取り方? あー…咲子にでも聞けよ、ああ。んー…そうだな、3日後に帰るから。ああ。…ん? なんか変わったことあったか?」
なんて日常的な会話だろう。
一緒に住んでるなんてうらやましい。
だって少なくとも家には帰る。
そしたら、そこに好きな人がいる。
ぼくたちだって、その選択はある。
けれど、一緒に住めば、どうなることやら。
ぼくは。
きっと。
耐えられない。
あんた、一色なることを、
おそれているから。