京極堂シリーズ

□From&To.
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12月31日、大晦日。

例年のように、此処中野京極堂では大宴会が行われていた。
しかし参加者のほとんどが酔いつぶれるという事態で、今は静かなものである。


今年も、残すところ30分程。


座敷では早い時間に既につぶれていた若者達が転がっている。
そして廊下と奥座敷に1人ずつ、呑み比べでつぶれた榎木津と木場。

そして
縁側にはこの家の主人。


「きみはまた飲まなかったのか」


その後ろに、猫背の小説家。


「関口か。
 今年も巻き込まれて…下戸なのだから警戒したらどうだ」

縁側のほうを向いたままで返事を返す。

「きみのように一滴も飲まないのもどうかと思うぜ」

まだ酒が抜けていないのか、関口はいつもより饒舌だ。
頬も心なしか仄かに紅い。

関口が酒に弱いのは周知の事実であるが、こういう宴会の時は大抵榎木津に飲まされる。
私が一滴も飲まないものだから、いつも文句を言ってくる。
今日も例外ではなかったようだ。

「ほら」

酔い覚ましにと思い湯のみを渡してやると、危なっかしい手つきで受け取った。
ふうふうと冷やし、温くなったのを確認してから口をつける。

「おいしい」

「それは何より」

「京極堂で色のついた茶が飲めるのはこういう日くらいだな」

「日頃の行いが良ければいつでも出してやるさ」

生憎と月が出ていないためか、外は真っ暗で。
室内の明かりが背後から注ぐ。

逆光を受けた関口が何となく色っぽく見える。
年越し限定の惚気である。

「ねえ、京極堂、今何時だい」

そろそろ年越しであろう。
懐中時計を見やると、針は11時58分を指していた。

「あと少しだね」

「ああ」


少しの沈黙が流れる。

耳をすませば、隣の関口の呼吸音が聴こえるような。


「あと1分だ」


時計が動く音が響く。


「10、9……」



3.2.1







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