記念もの

□喧嘩するほど?
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榎木津は、ああ見えて結構繊細である。

その傍若無人ぶりに常人は、大抵奴を「気遣いからは最も遠い」とするが、それは大違いでなのだ。
敬遠する水気のない菓子でも、貰い物であればきちんと口をつける。

気遣うその対象が好意を寄せる相手なら、尚更だ。


しかし、全力で愛情をぶつける為、対象には伝わらない場合もある。
その伝わらない場合が、今、私の前でうなだれているわけだから、始末に悪い。

「酷いんだ。
 榎さんたら、僕に干菓子を大量に押し付けて、その上ここで全部食えと言うんだよ」

「それは大概気の毒だが、榎さんの方だって気の毒だぜ」

今回の榎木津の気遣いは、多分、この間関口が干菓子の袋を見事にぶち撒けて駄目にしたのを
悔やんでいたから、そこから派生したものだろう。
言葉の足りない榎木津も榎木津なのだが、自分が食わないから押し付けたと思う関口も関口だ。

関係ない私には至極迷惑な話だし、事情が分かればただの惚気だ。


納得いかない様子の関口に榎木津の意図を話せば、関口は真っ赤になってうちを辞した。


静かになった我が家で、私はまた本を開く。



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