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□2月・3月
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――3月某日

新居に越してきて2ヶ月になる。
隣人の高齢夫婦とも仲良くなり、生活が落ち着いてきた今日この頃。雲雀は春休みにもかかわらず、ゼミのために大学へ出ていた。
「寒いな…」
春が近いと言っても夕方になれば風が冷たい。コートのポケットの中で携帯を握りしめていると、おなじみの着信音がバイブレーションとともに手の中に響く。
―ん?メール…
メールは骸からで、帰りにコンビニに寄ってきてほしいというものだった。
「いらっしゃいませー」
コンビニ入ると、いつもの女性がレジで忙しそうにホットフードの準備をしている。お菓子のラックに目を向けると、春の新商品コーナーにはいちごや桃、桜といった季節ものがきれいにならんでいる。春色の箱が並ぶ中、雲雀の視線が一つの商品にとまった。
―ピーチフレーバーか。
雲雀はその香りを予想して甘い想像をする。
手に持ったカゴには、骸に頼まれた板チョコと自分のビール、そして次の瞬間にはそのお菓子が入っていた。
そのお菓子は…
「Toppo ピーチフレーバー」。
会計を済ませコンビニを出ると、雲雀はうちに帰ってからのことを想像して頬をゆるめながら骸が待つマンションへと急いだ。

―――――――――――――――

かちゃかちゃ…ガチャっ…

「ただいま」
「おかえりなさい。今日は夕方から冷えましたね」
「ああ、ちょっと寒かった。これ、頼まれたやつ」
「ありがとうございます。…あ、これは?」
骸は雲雀から袋を受け取ると、中身を取り出していくとToppoに手が止まる。甘いものを好んで食べる骸と違って、普段はほとんど口にしない雲雀が自分でお菓子を、しかもチョコレート菓子を手にすることはめったにない。というか、骸は一緒に買い物に行ってもそんな姿は一度も見たことがなかった。そんな雲雀がこんなものを買ってくるなんて、と骸は不思議そうに尋ねる。
「特に意味はないよ。新商品で並んでて気になったから」
骸はもう一度箱を見て納得した。そこには「春限定!ピーチフレーバー」の文字がピンクでプリントされている。
これは骸も雲雀と同棲しはじめてから知ったことだが、雲雀は桃が好きだ。チョコレートやプリンなどの甘いものは苦手であまり食べないが、フルーツは好んでよく食べる雲雀。特に桃は彼のお気に入りらしく、以前お隣からもらった時は、珍しく自分で包丁をとって皮を丁寧にむいてくれたことがあった。
―本当に好きなものにはとことん目がないですね。
彼の見た目とこの嗜好のギャップを知った時は、さすがの骸も驚いたのが本音だ。しかし今ではこれがかわいいと思うあたり、だいぶヤキが回ってきたと思いながら、骸は夕飯の支度を整えていく。
「今日は何?」
部屋着に着替えた雲雀が骸の背後から鍋の中を覗き込んでくる。
ご丁寧に、その腕を骸の腰にまわして。
「今日はひじきとツナのピリ辛パスタです」
「ツナ…」
「あれ?嫌いでしたっけ?」
「いや、好きじゃないけど…嫌いじゃない」
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