main

□バレンタインは?
1ページ/4ページ

二月一四日。
社会一般的に、女性が意中の男性に向けてチョコレートを送り告白をするという日だ。
子どもから大人まで、全国のほとんどの女性はこの日のために義理であろうが本命であろうが何かしら手作りのスイーツを用意する。

それは高校二年生の六道骸も例外ではない。

「できた…」
「きれいにできたじゃん。お前なんでもできるよな」
「いや、隼人のおかげです。本当に助かりました。普段料理なんてしませんから全然分からなかったですし。しかも一週間前まで気づかなかったなんて…」
「間に合えばいいんだよ。間に合えば!俺だって作るつもりだったし。…明日頑張れよ?」
「う、…隼人こそ」
「俺はいいんだよ。毎年渡してるんだからな。別に恥ずかしくなんかないし…」
そう躯に言われ、獄寺は少し赤くなりながら答える。リビングのテーブルには出来上がったばかりのガトーショコラがふたつ並んでいる。ひとつの表面には薄くパウダーシュガーがふりかけてあるだけのシンプルなもの。もうひとつには、ホワイトのチョコペンで今年の日付と渡す相手の名前が書いてある。
「そんなシンプルでよかったのか?」
「いいんです。シュガーだけで。あんまり甘いものは好きじゃなさそうですし…」
「大丈夫だろ。今回はビター使ったからそんなに甘くないぜ?」
じーっと自分が作ったガトーショコラを見つめる骸。その眼には明日のことを考えているのか、不安の色が浮かんでいる。
すると獄寺はそれを察したように骸の背中をポンとたたく。
「心配すんな。絶対うまくいく!ってだけ考えてろ」
「…はい。隼人、このお礼は近いうちに」
獄寺は笑いながら自分の分のショコラを手早く箱に包むと玄関へ向かう。
「気にすんな。じゃ、俺そろそろ帰るわ」
「彼にもよろしく伝えてください」
「あぁ。じゃな」
獄寺を見送ると、自分が作ったショコラを丁寧にラッピングしていく。
ベージュの箱にブルーのリボンがきれいに映える。獄寺がいてくれてよかった。骸も不器用な方ではない。むしろ周りに言わせると器用な方だ。なのに、どういう分かお菓子作りなんてしたことがなかった。
そこで頼ったのが、同級生で料理も上手だと話に聴いていた獄寺だった。社交的な性格ではない骸にとって、数少ない友人の中に彼が入っていたのは本当にラッキーとしか言いようがない。
―お礼はテスト対策のノートですかね…。あ、いつもと同じか。
考えを巡らせながらカレンダーを見ると、明日は土曜日。普通なら学校は休みである。
しかし骸は、想う彼が学校にいることを確信していた。
―だって、学校が大好きで、群れるのが大嫌いなあの人にとって、休日ほど居心地のいい日はないから。
壁に掛けられた時計は午後九時を指そうとしている。学校から帰ってから作ったため時間がかかってしまった。夕飯も食べていなかったが明日のことを考えると緊張しすぎて空腹も感じない。
―だめだ…。お風呂入って寝ますか。
明日の段取りを考えながら骸は浴室へと向かった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ