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‡バレンタイン〜バダ円・映画沿い〜‡

緩やかな風を受け、温かな日溜まりの中で目を閉じて考える。
今の自分に出来ること。
これから自分がするべきこと。
この勇気をどうすれば伝えられるのか、バダップは思い悩んでいた。
そうして静かに呼吸をし、未だ目蓋の裏に焼き尽く光景を見つめる。
それは神々しいまでに金色に光り輝く、無限大の可能性を込めた正に神の手。
そしてその手を持ってして勇気を教えてくれた、円堂守。

初めて心を熱く掻き立てた、たった一人の存在。

「円堂守…」

きっと今頃、サッカーやろうぜとボールを蹴って走っているのだろう。
あの笑顔で、皆に立ち向かう勇気を自然と与えているのだろう。
だからその勇気を、自分が存在する現在に、そしてこれからの未来に、必ず繋いでいこう。そう思っているというのに。

「おーいっ、バダップー!」

「円堂カノン…!」

「良かったぁ、会えて!!」

はぁっはぁっと息を切らし、駆け寄って来たカノンを見つめてバダップが目を丸くする。
一体どうやって自分がここにいるのを突き止めたのか、何故ここに来たのか、検討がつかないのだ。

「何故俺が此処にいると?」

因みに『此処』とは、近代化する未来の中で大切にされている緑化公園のひとつ。
その中でも市街地から随分と離れた公園の丘であり、バダップは人気の無いそこにあの日以来度々来るようになっていた。

「ミストレが教えてくれたんだ!充分黒いくせにまだ日焼けをしに行ってるんだって!!……そうなの?」

「違う」

ミストレの余計な一言にバダップが頭痛を覚える。
しかしとりあえずカノンが此処に来れた理由はわかった。次は何故此処に来たのかという疑問だ。
カノンはそんなバダップの視線に気付いたのだろう。ニコリと笑って小さな紙袋を取り出した。

「?」

元は鮮やかなオレンジ色だったのだろうが、今では随分と色褪せた紙袋。
それをずいとカノンに手渡され、バダップは眉を寄せた。

「円堂カノン、これは一体…」

「ひーじいちゃんからだよ!あ、80年前のね!!」

「!?」

いいから早く開けなよ!とカノンに急かされ、バダップは促されるままにガサリと封を解く。
そして紙袋の中から出てきたのは、これもまた色褪せた一本のミサンガとメッセージカード。

「あ、そのカードはバダップは読めないかな?俺代わりに読むね!」

ひょっこりとメッセージカードを覗き込み、カノンが当たり前のように解読を引き受ける。
確かにバダップは、そのカードに書かれた文字なのか何なのか分からない得体の知れない“模様”を文章として捉えることは出来なかった。

「頼む」

「任せてよ!えーっと、コホンッ!“バダップへ。今日は2月14日で、でもさすがに未来にチョコレートは残せないからミサンガで許してくれよ?これさ、俺が頑張って作った勇気のミサンガだから!!円堂守より”だって!ひーじいちゃんらしいや!!」

80年越しに伝えられたメッセージに、バダップの目尻が急速に熱くなる。
そしてついこの間出会ったばかりだというのに、こんなにも時代が違うのだと今更になって思い知らされた。
何故なら過去から未来へ受け継がれてきた円堂守からのバレンタインはしかし、想いを返すことが出来ないからだ。

「円堂っ…!」

涙が、ミサンガへとこぼれて落ちた。
それを見たカノンは目を細め、ミサンガを握りしめるバダップの手に自分の手を重ねて言葉を紡いだ。

「勇気のミサンガ。これ付けて、俺達の未来を変えよう!それがひーじいちゃんに対する三倍…んーん、それ以上のお返しだよ!!」

「…!」

ニカッと笑うカノンの笑顔に、円堂守の笑顔が重なる。
同時に、決意の炎が強く心に灯った。

「そうだ。考えるだけでは何も始まらない。これでは、何もしないうちから諦めているようなものだ」

しゅるりと、ミサンガを堅く右腕に結ぶ。

「俺には…俺達には未来を変える勇気がある!!」

そしてとんとんと、ミサンガをつけた手で左胸を叩く。
それは円堂に見せた誓いの合図。


バダップは、一歩前へと足を踏み出した。


‡カ「ひーじーちゃんからのミッションクリア!」‡
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