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‡バレンタイン〜あずまも〜‡

虚しいかな。
風丸なんかは毎年恒例と言わんばかりにチョコレートを入れる紙袋を持参し、円堂も円堂でかなりの量のチョコレートをもらっている。(しかもその中には豪炎寺や鬼道が渡した物まであるのだから色々心配だ)
反して自分は学級委員長である大谷からの義理チョコのみであり、バレンタインデーといういかに誰がモテて誰がモテていないのかをチョコの数で示すイベントの完全なる敗者である。

「あずまー?早く帰ろうぜ?」

結局放課後になっても女子が寄ってくる気配はなく。
本日部活が休みの円堂に誘われるままに、東は学校を後にした。

「なあなあ、駄菓子屋寄ってもいいか?」

「おう、いいぜ」

ヤッターと喜ぶ円堂に、自然と頬が緩む。
全く不思議なことに、昔から円堂の笑顔には癒やしを感じるのだ。
意気揚々と駄菓子屋の暖簾をくぐる円堂に続きながら、そう言えば二人でこうして駄菓子屋に入るのも久しぶりだと東は思う。

「(まあ、円堂は部活がない日も一人で特訓だって鉄塔に行くもんな)」

懐かしいお菓子に目をやりながら、ふと東は違和感を覚えた。
何故、今日に限って円堂は特訓もしなければ部員でもない自分を誘ったのか。
あれだけチョコレートをもらっておきながら、今日がバレンタインだと気づいていないわけではないだろう。

「(…って、考えるだけ無駄か)」

これで円堂が女の子であれば話は別だが、残念なことに円堂はやたら男前でハチャメチャに鈍感で究極に天然なのだ。
そりゃ貰えたら嬉しいが、その可能性は死滅寸前の毛根が蘇るよりも薄い。

「まだ何買うか悩んでんのか?」

不意にひょっこりと顔を覗き込まれ、ドキリと心臓が跳ねる。
先にも言ったが円堂は男前で、しかし鈍感で天然なところがたまらなく可愛いのだ。
今だってあどけない上に真っ直ぐで、チョコレート色の瞳に見入ってしまう程。

「東?」

「あー…じゃあ飴でも…」

可愛らしく小首を傾げる円堂の手には、既にお菓子を購入した後だとわかる紙袋。
東は陳列しているカラフルな飴を適当に掴んでカゴに入れると、また少し皺の増えた駄菓子屋の主の元へと持って行った。


*********


「そう言えば、今日は特訓しないのか?」

駄菓子屋からの帰り道、ゆっくりと歩を進めながら疑問をぶつける。
すると円堂はガサガサと紙袋を開けつつ、んー、と苦笑を浮かべ、珍しく歯切れが悪そうだった。

「今日は特別、なんだ」

「?」

特別とは、バレンタインのことを差しているのだろうか。
それにしたってやはり分からない。
東が無言で話の先を促せば、円堂はマシュマロ入りの袋をパリパリと破って手に取った。
そして、


ふにゅん


東の口に押し付けた。

「!?」

反射的にぱくりとそれを食べ、咀嚼してようやくそれがチョコレート入りのマシュマロであることに気付く。

「バレンタインだから、な?」

そう言った円堂の頬が、赤い。
夕暮れでもなんでもないと言うのに、恥じらう花のように赤いのだ。
それが何故か、だなんて。最早愚かな考えだ。


「………今すぐ、お返ししたいんですけども」


ごくんとマシュマロを飲み込んで、俺は円堂の手を力強く握り締める。
すると円堂はすっかり汗ばんだ俺の手に驚きつつ、今度は耳まで真っ赤にしてこくりと可愛く頷いた。



どうやらバレンタインとは、チョコレートの数で勝ち負けが決まるわけではないようだ。



‡風「で、円堂が東の家で腰痛になったと?」‡
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