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‡ホワイトデー〜ヒロ円←南〜‡


「うっぜぇ…」

南雲は、ここ2,3日程同居人の様子がおかしいことに気づいてはいた。
気づいてはいたのだが、触らぬ何とやらに祟りなし、だ。

しかし、それにしたってヒロトの存在というのは中々にこの家で大きく、無視をしようにも必ず視界の端に入って鬱陶しいことこの上ない。
しかも彼が塞ぎ込んでいる理由が3月14日という日付に原因があるという現状が、南雲を更に憂鬱にさせていた。

「お前なぁ…ホワイトデーに円堂から何も誘われなかったからって、じめじめ腐ってんじゃねーよ!」

「………はぁ」

「無視かよ…ったく、そもそもバレンタインだって風丸とかいうヤローに邪魔されたんだろ?だったら円堂だってお前がチョコ渡したのをバレンタインだからって気づいてない可能性だってあるじゃねーか」

我ながら、なんでこんなホモにフォローをいれているのかと虚しくなる。
そりゃあ確かに円堂はバカみたいにサッカー好きでアホでやっぱりバカでどうしようもなく底抜けに明るくて、その…かわいい、けれども。

「(ここまで惚れ込むもんかねぇ)」

ピンポーンとインターホンの音が聞こえて玄関に向かいながら、南雲は深くため息をついた。
もしこれで新聞勧誘とかであったならば、自分は確実に怒鳴り散らすだろう。
南雲は、苛立ちを抑えることなくガチャッと勢いよく扉を開けた。

「どちらさ……」

「あ、南雲!!ヒロトいるか?」

「なっ…円堂!!」

「円堂君だって!?」

驚いた。
まさか玄関を開けて立っていたのがまさかの円堂で、しかも思わず名前を叫んだ自分を直後に張り倒してヒロトが出てきたのだ。
べしょりと地面に顔を埋める結果となった南雲はすぐさま起き上がってヒロトに文句を言おうと眉を吊り上げたが、視界に入ってきた光景に思わず言葉を飲み込んだ。


何と、円堂がヒロトの胸倉をつかむようにしてキスをしていたのだ。


「ハ……?」

理解が、できなかった。
ヒロトが円堂に無理矢理キスをしているのならば話はわかる。
だが目の前の光景はどう考えても円堂からのキスだ。
何せ、わざわざ爪先立ちをしてヒロトの身長に合わそうとしているのだから…


「チョコの、お返しな」


短いキスを終え、ぽつりと円堂が呟く。
その表情ときたらまるで茹で上げたばかりのタコのように真っ赤で、

何故だか胸が、ざわついた。

その後円堂は疾風ダッシュ顔負けの速度で走り去り、ヒロトは噴水の如く鼻血を吹いて玄関先でブッ倒れ、帰ってきた風介に邪魔だと蹴飛ばされながらもその表情は幸せそのもので、

俺は、どうにもこうにも円堂のあの真っ赤な顔が忘れられずにいた。


‡fin‡
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