ブログ小話 バトン

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The President

【Hizikata×Enomoto】



最初は、ほんの些細な榎本の軽口から始まった
しかし、この国では洒落と言う粋な計らいは通用しない

通用しない処か
罷り通ってしまうのだ

「はい注目ー。本日一日だけの『一日総裁』をしてもらう土方くんでーす」

朝の大広間
前方で視線を集める榎本と、その隣に煙草を吹かして平然と立つ土方が居る

「まぁ、なんだ…それなりに頼むわ」

(((((((は…?)))))))

漸く最近になって、その馬鹿っぷるさに暗黙で付き合わされ慣れてきた周囲だが
満面の笑みを浮かべる榎本と普段通りの土方を交互に改めて見詰めた

実力と権力を見れば国内で誰も逆らう事が出来ないこの傍迷惑な最強コンビ…
もといバカっプルに
今日はまた、とんでもない事に巻き込まれる

その場に居た全員が青筋を浮かべて思い立つ

「何の遊びですか?」

満員一致の疑問を松平が代表して問う

「昨日の夜さ、ゲームで賭けたんだけど負けちゃった」

《何やってンのアンタらっ!!!!!!!!》

えへへ。と舌を出して見せるゲームに軽く総裁の権利を賭けた榎本と、勝ってしまっている土方に
あくまでも内心だけで突っ込む

声に出してしまえば
その無駄に余りある二人だけに許された実力と権力で、何を仕出かすか予測不能な彼らだ
声に出そうとする恐れ多い輩もいない

と言うよりも、この件に関わりたく無い
と既に腰が退けてきた

「さすがは土方先生ですっ!!遂に一国の主に成られるとはっっ!!!!!!!」

感激です!と島田が遠くで大向を轟かせると、ごく一部の方から歓声が上がりだす
勿論それは守衛の他は居るまい

「よせよ、照れるだろ」

ハニカム土方は意外とノリ気だから仕方が無い

「今日一日だけだからね!」

負けてしまった必至な榎本は地団駄を踏んだ



それから朝の会議を終え
長官室の上座には土方が構え、榎本は近くのソファーで小さく丸くなっている

それを大鳥は横目でチラチラと伺いながら
この地で現在もっとも地位のある椅子に深く凭れ、脚まで組む土方を見据えた

「え―っと…今から四稜郭の城築作業に参ります」

「…もっと頭下げたりしねぇの?」

「何ぃ!?」

「頭が高ぇンだよ」

軽く会釈をする程度では納得してくれない
ふん反り返る総裁から『平伏せろ』と幻聴まで聞こえて来そうだ

「そんなこと言わないよ!頭下げろなんて、大名じゃないんだから」

「俺は気に入らない」

後方では頬を膨らませる榎本
大鳥の前には心底、楽しそうな土方だ
この独裁者に、大鳥は今日一日堪えなければならない

…いや、此処で頭を下げて五稜郭を出てしまえば良い
逃げるが勝ちだ

「…ぃ、行ってまいり―…」

「総裁ィイイイイ!!」

頭を深々と下げた大鳥は
後ろからドタドタ勢いよく駆けて来た春日に押され前方にツンのめてしまった

「さすがは土方先生、総裁気分はどうですか?」

「面白ぇよ。良い気分だ」

「その椅子、よくお似合いです」

大鳥はそのままに、すかさず椅子へ掛ける土方に纏わり付く
それに今度は榎本がピキッと眉を動かした

「春日さん、この部屋で不純行為は禁止!」

「人の事を言えますか榎本総裁…あ、今は総裁じゃないですね」

その嫌味に負けじと春日の反対側から土方を挟んで睨み付けている

「正に両手に花とはこの事だな」

「太郎さん、僕もう行って良いかな?大川達を待たせてあるんだよ…」

その時、またしても扉が開かれ訪問者が現れた

「大鳥さんまだですかぁ?」

「大川っ!?」

「トシさん!ソーサイだって?出世したなァ」

「よぉ伊庭。一日だけだぞ」

「げっ…ユキエまで」

何処からか噂を聞き付けて来た伊庭に、大鳥を出迎えに来た大川
春日を探しに来た丸毛のその鬼気迫る顔に春日は顔色を変えた

「サエ!こんな場所で油売ってないで行くよ!いきなり脱け出してったと思ったら」

「離せっっ」

「星さんが探してンの!」

「助けてに来てくれたんだな大川!」

「はい?」

だいぶゴタゴタして来た長官室に、又してもドバンっ!と扉が開かれ
そこに踏み込んで来たのは守衛の面々だ

「陣中見舞いに来ましたぁ〜」

「あ゙ぁ!?春日、何でテメェまで居るンだよっ!!」

「やめとけ野村」

いつしか春日と野村の睨み合いまで始まった始末だ

「この部屋って、こんな賑やかだったか?」

「君が居るからだよ!」

長官室は嘗て無いくらいの人だかりで、榎本は既に呆れ果てる事しか出来ない
そんな困り果てている最中、徐に松平がパンパンと手を叩く

「公務の邪魔です。全員、直に持ち場に戻って頂きましょうか。ね、総裁?」

その目線は勿論、土方へ向けられる
だが、その眼はとてつもなく身の毛も弥立つ

土方が有無を言う前には、ほぼ全員が退室を余儀無くされ。ゾロゾロと戻って行った

「では、コレに決印を」

「…俺が?」

「総裁ですからね。ご心配無く、酒屋から来た只の領収書です」

「あ、太郎ちゃん。名前抜けてるよ」

榎本が土方の脇から身を乗り出して書面を覗き込んだ

「なら、名前はテメェが書け。ここに跨がってな」

「え゙」

「総裁命令が聞けねぇってか?」

ニヤリと笑みを浮かべる土方に榎本は唇を噛み締め
ココと言われた総裁の席に座る土方の膝上を
跨いで乗り上げる

「総裁の意味、間違えてない?職権乱用じゃん」

「煩ぇよ。アンタだって、たまにしてンだろ」

首を傾げながら筆を取る途中、前方にある土方の手がベルトに伸びる

「セクハラ!!」

「悪ィ。手が勝手に」

「イチャつくのも職権乱用も良いですから、早くして下さい。まだ残ってんですから」

「じゃあ続きは夜な。総裁命令」

「横暴。まったく、とんだ独裁者だね」

榎本を膝上に乗せ機嫌の良い土方と口先では呆れつつ命令を律儀に聞いている榎本だ
そして、榎本が名を記した場所へ土方が印鑑を押す作業が続いた

その間もイチャイチャする二人に
松平が冷静さを見失わなかったのは流石と言えよう









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